2018 Fiscal Year Annual Research Report
中性子回折・鉄鋼組織形成シミュレーターによる組織解析法の革新
Project/Area Number |
17H03424
|
Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
佐藤 成男 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (40509056)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石垣 徹 茨城大学, フロンティア応用原子科学研究センター, 産学官連携教授 (00221755)
小貫 祐介 茨城大学, フロンティア応用原子科学研究センター, 産学官連携助教 (50746998)
星川 晃範 茨城大学, フロンティア応用原子科学研究センター, 産学官連携准教授 (60391257)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 結晶・組織制御 / 量子ビーム解析 / 鉄鋼 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は鉄鋼製造プロセスにおける高温領域(約700~900℃)からの急冷-中温保持(350~500℃)におけるベイナイト変態、安定オーステナイト形成、オーステナイト相への炭素拡散を定量観察することを目的とする。2017年度に高速加熱、ガス急冷による温度制御を行う中性子回折組織解析システムを開発した。2018年度は開発した装置を用い、低Mn鋼で高-中温における相変態その場観察の高速測定、炭素拡散に伴う炭素濃化の定量解析を目指した。 低Mn鋼では900℃のオーステナイト域から400℃に急冷、保持した場合、フェライト組織中に残留オーステナイト相が残留する。残留するオーステナイト相の相分率を中性子回折データから解析するには従来300秒程度の積算時間を要していた。このため400℃の温度域で刻々と変化する残留オーステナイトを評価するには不十分な時間分解能であった。Rietveld-texture解析を用いるが、不十分な蓄積強度では適切な解が得られない傾向があった。この原因を探るため、Rietveld-texture解析におけるパラメーターを検証し、集合組織と温度因子を固定することで大幅な測定時間の短縮が可能であることを見いだした。予め、温度因子を決定すること、集合組織が400℃域では変化しないことを前提に60秒以内の測定データに対するRietveld-texture解析を実現した。 また、炭素濃度の定量化においては格子定数から行うが、温度による格子定数への影響も考慮する必要がある。この影響については多数の文献から得られた経験式をもとに解析した。その結果の妥当性を検証するため、400℃域と室温で安定化したオーステナイトに対し、それぞれの温度で格子定数から炭素濃度を求めた。異なる温度域により格子定数が変化した場合においても同様な炭素濃度を導き、様々な温度域での炭素濃度定量化に成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は高速測定のためのデータ解析法の開発、炭素拡散に伴う炭素濃化の定量解析法の開発を目的とした。 ・高速測定のためのデータ解析法の開発:400℃程度の中温領域ではオーステナイトからフェライトへの拡散変態とフェライトからオーステナイトへの炭素拡散が生じる。これら現象を可能な限り短時間の中性子回折データから解析し、時間分解能に優れた現象解析を実現する必要がある。炭素拡散は格子定数から評価するが、2種類の異なる炭素濃度を持つオーステナイト相が存在することを明らかにした。それぞれのオーステナイト相の回折ピークを分離する必要があるが、10秒の測定から得られる回折データで解析を可能とした。また、相分率はRietveld-texture解析により求めるが解析パラメーターの最適化により60秒以内の測定を実現した。 ・炭素拡散に伴う炭素濃化の定量解析:フェライトからオーステナイト相への炭素拡散はオーステナイト相の格子定数から評価できる。一方、格子定数は温度によっても変化するため、温度の影響を補正した炭素濃度評価とする必要がある。文献および実験検証から、最適な温度・組成の格子定数補正式を明らかにし、適切な炭素濃度評価を実現した。 以上のように、2018年度の目的を実現した。
|
Strategy for Future Research Activity |
中性子回折から確認できる相変態現象は結晶構造の変化を伴う現象である。一方、ベイナイト変態は回折から確認することは困難であり、異なる観察手法を組み込む必要がある。そこで、測定チャンバーに熱膨張計を組み込み、多面的に相変態現象を解析する。2018年度までに試作品が完成しており、2019年度はそれを用いた中性子回折実験を行う。 2018年度までは一種類の組成のFe-Mn-Si-C鋼に対し、解析を進めていたが、Mn, Si, Cの組成を変えた試料に対しても測定、解析を進める。さらにオーステナイト域や中温領域の温度条件についても変数とした実験を進め、Fe-Mn-Si-C鋼の残留オーステナイト相形成と炭素濃化現象について考察を深める。加えて、残留オーステナイト相の安定性を評価するため、機械強度試験を行い、強度・延性と炭素濃度、粒形態との相関性を明らかにする。
|