2017 Fiscal Year Annual Research Report
炭素線がん治療二次被ばく計算の高度化に向けた核反応模型の総合的研究
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17H03522
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
魚住 裕介 九州大学, 工学研究院, 准教授 (00232801)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 重粒子治療 / 炭素イオン / 陽子 / 原子核反応断面積 / 原子核反応模型 / アルファ粒子 / 粒子輸送計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
炭素線がん治療では、高エネルギーのイオンビームを使用するため、原子核反応から放出される二次粒子による晩発影響を評価する方法の開発が急務となっている。正常組織が受ける被ばく量を計算するには二次粒子の生成量や放出角度を与える二重微分断面積が必要となるが、現在は測定データが全く不足しており、また理論的に予測するための反応模型は予測精度が著しく低い状況となっている。本研究では、炭素イオン等による原子核反応の理論模型の確立を目的として、炭素線がん治療において典型的な原子核反応の二重微分断面積を測定すると共に、申請者らが世界で初めて成功したα粒子原子核反応模型を改良・発展させる。実験を行う際には、ターゲットは人体構成元素に限らず幅広く選択し、ビームエネルギーも広い範囲で選ぶ。また、放出粒子は陽子から炭素イオンまでの範囲で可能な限り全ての放出粒子を全エネルギー範囲で測定して、反応機構を明らかにして信頼性の高い核反応模型を確立する。開発した核反応模型は粒子輸送コードに搭載して、高精度の被ばく線量計算を可能にする。以上の事を背景として本年度は、実験と理論の両面の研究を行った。 実験研究では、まず高エネルギー荷電粒子測定のための測定器開発をおこなった。過去の研究で得た知見と経験を活かして、Si半導体検出器とGSO(Ce)シンチレータ及び、PWOシンチレータから成る大型カウンターテレスコープを開発した。高エネルギー粒子の測定では、検出器内部での核反応や検出器からの飛び出しによる検出効率の低下が起こることが知られており、検出効率を高精度で決定するための研究を行った。次にα粒子と陽子を入射粒子とする原子核反応実験を実施して、二重微分断面積データを得た。理論研究では、過去に米国で取得されたα粒子エネルギー35MeV/uでの実験データを用いて核反応機構に関する理解を深め、理論計算コードを開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は重イオンがん治療二次被ばく計算の精度向上に向けて実験と理論両面の研究を行った。実験ではα粒子と陽子を入射ビームとして用いた。α粒子はビームエネルギー100および230MeV/u、陽子は40および70 MeVであった。α粒子入射反応実験用には、新しく検出器と散乱槽を製作して実験室に設置して整備すると共に、二重微分断面積データを取得した。反応放出粒子として、陽子、重陽子、三重陽子、ヘリウム3、α粒子であり、測定角度は30度から90度まで4点であった。標的としては炭素、アルミニウム、コバルトを用いた。過去に米国で測定された35MeV/uのデータを含めて系統性を調べた所、十分高い精度でデータを確定する事ができたと考えている。従来dE-E法で得たデータの標準的な解析方法では検出器不感領域の確定が困難となっていたが、エネルギー損失シミュレーションとdEシングルスペクトル分析とを併用することで、不感領域のギャップを埋める方法を開発した。さらに、次年度に計画する炭素イオン入射反応実験に向けて重イオン用測定器開発を進めており、次年度にはビーム実験において使用する計画である。陽子は二次粒子として圧倒的に多く発生し、高エネルギーのものも多くレンジが長いため、その追跡は被ばく計算において重要であることから、特にデータが少なく反応機構が解明されていない180度近傍で実験を行った。 理論面では、重陽子およびα粒子入射反応の全チャネルをカバーする理論模型を構築し、その精度を検証した。文献データを高い精度で再現可能であることが分かり、その成果は原著論文として投稿して受理・公開された。さらに、今年度取得したデータについてもパラメータ値を変更することなく、良い一致となる事が分かった。特に分解反応においては、エネルギーおよび運動量保存のアルゴリズムを改良したことが大きな影響がある事が分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に行った実験で取得したα粒子入射反応の二重微分断面積データについては、補正の確認と誤差評価を終わらせて確定し、原著論文として公開を急ぎたい。 平成30年度からは、炭素イオン入射反応の実験を開始する。30年度前期のマシンタイムは既に配分を得ており、実験では既に開発済みの測定器を用いて陽子等の軽イオン測定を行う予定である。炭素イオンを用いる荷電粒子測定実験は初めてとなるため、収量の少ない重イオン測定に備えてバックグランドの影響を注意深く見極める必要がある。重イオン測定に向けては、新しく開発したSi+CsI(Tl)検出器の動作の最適化を進める他、重イオンは収量が小さくバックグランドの影響が深刻になる恐れがあるため、バックグランド低減の方策を十分に検討して準備を行う予定である。重イオン測定実験は本年度後期に実施する。標的とビームエネルギーは当面の間一定として、データの信頼性向上に先ずは努めていく。一方、陽子入射反応については順調にデータ取得が進んでいることから、ターゲットの種類を変えつつデータ収集を継続していく。 一方、理論研究では陽子入射反応によって基礎付けを進めてきたエネルギー・運動量保存アルゴリズムの精度を上げると共に、炭素イオン反応に対応するため粒子多重放出に対するアルゴリズムに拡張させて炭素イオン入射反応への適用を可能にする。このため、終状態チャネルの増大に伴う入射粒子の分解過程アルゴリズムを整理し最適化を図る。以上の作業を進め、実験データを取得すると直ちにパラメータ探索・調整の作業に取り掛かれるように準備を進めて行く。更に、炭素イオンだけでなく他のイオンに対しても適用可能とするようにアルゴリズムの一般化を進める計画である。
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Research Products
(2 results)