2017 Fiscal Year Annual Research Report
霊長類頭頂弁蓋部・後部島皮質における自己意識の表象
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17H03549
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
入來 篤史 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, チームリーダー (70184843)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自己意識 / 第二体性感覚野 / 頭頂弁蓋部 / 自己鏡映像 / bimodalニューロン |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は1頭のニホンザルに鏡映認知訓練を施し、自己鏡映像を介した視覚的応答と体性感覚的応答の両方を示すbimodal ニューロンを頭頂弁蓋部で記録し、その性質を調べる事を主な目的とした。 頭部に神経活動記録用チェンバー設置手術を施したサルに対して自己鏡映認知訓練を行なった。術後回復期に術部を盛んに手で触れる行動が見られた。飼育ケージ内に金属製鏡を設置したところ、数日後には、鏡を見ながら、頭部の記録チェンバーを触る行動が見られるようになった。また、全身が映る鏡の前に置いたチェアーにサルを座らせ、自己身体に対する接触を体性感覚と鏡像を介した視覚の両方で検出可能にする条件を創出した。この状態で、実験者がサルの種々の身体部位に接触刺激を加える訓練を行ったところ、約4週間後に、サルは身体に照射された赤色LEDを自己鏡映像を見ながら手で追いかける行為を示す様になると同時に、鏡映像を注視しながら、自己の口唇や胸部のグルーミングを自発的に行うようになったことから、自己鏡映認知が成立したと判断した。 このサルの頭頂弁蓋部より無麻酔下で単一神経活動を記録し、身体刺激に対して視覚的体性感覚的に応答するbimodal ニューロンの性質を調べた。記録されたbimodal ニューロンのうち、最も多く観察されたのは身体周辺の動き刺激に対する視覚応答をしめすものであった。これらの中には、頭部など鏡を介して初めて確認できる身体部位に受容野を持つニューロンがあった。また、自身の背後の動きに特異的に応答するニューロンなども見つかった。これらの視覚応答は自己鏡映像を介したものであるから、自己鏡映認知に関わる神経活動と推測できる。これらについては、学会発表を行った。 上記サルとは別の1頭に対して、皮質間神経連絡を調べる目的で第二体性感覚野の違う場所に2種類の逆行性トレーサーを注入した。この結果に関しては現在解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に記載した初年度実験計画をほぼ遂行することが出来た。初年度の計画は、以下の3つに内容からなっている。1)自己鏡映像認知の訓練、2)電気生理学実験-1 鏡映を用いたbimodal ニューロンの記録とその性質の解析、3)皮質間神経連絡の解明。1)、2)は1頭を対象にほぼ計画通りに進行した。自己鏡映像訓練では、頭部記録チェンバー設置手術の術後個体を対象にしたことが効果的であったことから、サルが自己身体へ自発的に注意を向けることの重要性を確認することが出来た。また、鏡を介した自己身体へのグルーミングが頻繁に見られたことは、大変興味深いことであった。また、電気生理学実験の対象とした領域は第二体性感覚野を中心とした頭頂弁蓋部である。我々は従来視覚応答がない領域と考えられていた第二体性感覚野から視覚応答をするニューロンがあることをすでに報告している。今回、両半球の第二体性感覚野を含む領域から多くのbimodalニューロンが記録されたことから、改めて第二体性感覚野が多感覚領域であることが確認された。更に、鏡映像でしか確認できない身体部位周辺や自身の背後などへの視覚刺激への応答は、「自己意識」に関わる神経活動である可能性が高く、この領域が「自己意識」の成立に関わる領域である事を示唆していると考えることが出来る。 神経解剖学実験の目的は、自己身体認知に関わるニューロンが記録される部位に特徴的な皮質間連絡を明らかにすることにある。今回電気生理学実験に供した個体については、記録部位を明らかにすることを優先させたため、トレーサー注入は行わなかった。皮質間連絡を調べる実験は、次年度以降の電気生理学実験と並行して進めていかなくてはならない。 以上のように、本年度の実験の進行はほぼ計画に沿って進行しており、「順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、初年度の電気生理学実験-1とその終了個体に対して行う皮質間神経連絡を調べる実験を2頭以上で行う。また、自己意識に関わる神経活動を更に詳細に明らかにするための新たな電気生理学実験の開始の準備を進める。 初年度の電気生理学実験-1では、自己鏡映像を介した身体周辺の視覚刺激への応答を示す神経活動を記録することが出来た。今後は次の2点の特徴を持つニューロンに着目して電気生理学実験を遂行する。第一は、自己と他者(実験者)の身体刺激に対して違う応答を示すニューロンである。具体的には、自身の手による自己身体と他者身体に対する接触刺激、及び自身による刺激と他者による刺激に対して異なる応答を示すニューロンを探索する。また、我々がすでに第二体性感覚野で報告した全身を覆う大きな触覚受容野を持つニューロンを対象に、身体周辺への視覚刺激に応答するニューロンの探索を行う。これは身体部位によらない応答を示すことから「概念的自己意識」の形成と深く関わると考えられる。この電気生理学実験終了個体を対象にこれらの特徴を持つニューロンの記録部位にトレーサーを注入する神経解剖学実験を行い、この領域に特徴的な皮質間神経連絡を明らかにする。 また、電気生理学実験-1で明らかにされた自己意識に関わる神経活動をの性質をより詳細に検討するための電気生理学実験-2の準備を進める。この目的を実現するため、鏡ではなくモニター上に自己鏡映像を映すことで、1)視覚刺激のタイミングの人為的コントロール、2)「他者」として別のサルの全身像の提示による「自己-他者」の種々の関係の人為的創出、の2点を可能にした条件下で神経活動記録を行う。これにより、自己鏡映像に対する「自己意識」の減衰・消失や種々の「自己-他者」の関係が神経活動に及ぼす影響を調べることが可能となり、「自己/他者」意識の脳内表現の詳細な検討が可能になると考える。
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Research Products
(1 results)