2019 Fiscal Year Annual Research Report
慢性期脊髄損傷の薬物治療;骨格筋萎縮と軸索断裂を改善する生薬医薬品の開発研究
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17H03558
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
東田 千尋 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 教授 (10272931)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 脊髄損傷 / 筋委縮 / 軸索修復 / 生薬医薬品 / ニクジュヨウ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、治療が極めて困難とされている慢性期脊髄損傷を回復する薬物を開発することを目標とする。申請者は、脊髄損傷を改善しうる生薬の研究を進めて きた中で、骨格筋萎縮を改善しかつ軸索伸展も促す肉従蓉エキスの活性とその活性成分acteosideの知見を得ている。その成果にもとづき本研究は2つのゴールを設定する。①Acteosideが骨格筋と神経細胞に及ぼす機序を明らかにする。特にacteoside による刺激で骨格筋から分泌されることが分かったPKM2が、筋増殖や軸索伸展を促進するメカニズムを明らかにする。②肉従蓉エキスをBotanical Drug(生薬単味エキスを成分とする新効能の医薬品)として開発するため、非臨床試験、臨床試験を進める。 令和元年度は、大脳皮質神経細胞のライセートを用いたDARTS法によって、PKM2が神経細胞中で直接結合する分子、すなわちシグナリングの起点分子の同定を試み、候補分子としてVCPを同定し、PKM2がVCPに結合するとその分子を活性化することを明らかにした。 また、脊髄損傷慢性期マウスの脳室内にリコンビナントPKM2を持続的にinfusionしたところ運動機能が改善し、また坐骨神経に投射するneuraxisの数が有意に増加することも明らかにした。VCP阻害薬をPKM2と同時に脳室内投与すると、これらの改善作用が完全に見られなくなった。以上の結果より、PKM2はVCPを介して慢性期脊髄損傷の回復をもたらす分子であることが示された。 さらに、ニクジュウヨウエキスによる、筋萎縮抑制や運動機能改善効果を評価する臨床研究を終了した。現在、結果の解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1) 骨格筋細胞のライセートを用いたDrug Affinity Responsive Target Stability (DARTS)法によって、PKM2が神経細胞中で直接結合する分子、すなわちシグナリングの起点分子を同定する実験を行いVCPを同定した(新しい発見)。また、PKM2がVCPを介して慢性期脊髄損傷の回復をもたらすことを証明し、acteoside注射→PKM2の骨格筋からの分泌→軸索伸展→機能回復 に至る流れを明らかにできた。PKM2にこのような作用があることは新しい知見である。
2) ニクジュヨウエキスによる、筋萎縮抑制や運動機能改善効果を評価する臨床研究の実施を前倒しで開始し終了した。ニクジュヨウエキスは食薬区分の食に属して おり、かつ高い安全性を担保するヒトでの前例があるため食品レベルで臨床研究を進めることとした。脊髄損傷患者に対する臨床研究の前段階の臨床研究の位置づけと、同時にサルコペニアなどの筋萎縮予防薬としての一般用医薬品の出口も見据えた重要な臨床研究として「ロコモティブシンドロームに対するニクジュヨウエキスの予防及び改善効果の研究」を二重盲検法により実施し、全被験者の試験を年度内に終了した。
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Strategy for Future Research Activity |
1)PKM2が骨格筋から分泌されたあと、脳内に移行して作用するmyokineであるのかを明らかにするために、リコンビナントPKM2を蛍光標識し、それを尾静脈注射して5-20分後の脳内の蛍光標識PKM2濃度を免疫組織染色にて検出する。この実験により、PKM2が血流にのって遠隔臓器にまで作用しうる新しいタイプのmyokineであるかどうかを検討する。
2) 臨床研究「ロコモティブシンドロームに対するニクジュヨウエキスの予防及び改善効果の研究」の解析を終えて、論文化する。同時に、一般用医薬品としての承認を目指して、企業との共同開発計画も進める。
3) 脊髄損傷患者を対象にしたニクジュヨウエキスでの臨床研究の計画を立てる。
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