2017 Fiscal Year Annual Research Report
オルガノイド培養による胆道・膵臓腫瘍細胞バンクの構築と個別化治療への応用
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17H03592
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
齋藤 義正 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 准教授 (90360114)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 胆道・膵臓がん / オルガノイド培養 / 個別化治療 |
Outline of Annual Research Achievements |
胆道・膵臓がん患者由来のがん組織および非がん組織を用いて、オルガノイド培養により幹細胞を培養・維持し、1 年以上にわたり安定的に培養できるがんオルガノイド株をこれまでに 6つ樹立した。次世代シーケンサーやマイクロアレイにより、樹立したオルガノイドにおけるゲノム、エピゲノム、トランスクリプトーム解析および細胞増殖の解析を行った。これらのオミクスデータおよび細胞増殖能の解析の結果、がんオルガノイドにおいて共通して発現上昇する遺伝子として、HOXB7、SOX2、miR-17-92クラスターなどが同定された。一方で、がんオルガノイドにおいて共通して発現低下する遺伝子として、MMP1やCD24などが同定された。これらの遺伝子は、発がんや幹細胞において非常に重要な役割を果たしており、難治性がんの治療標的となる可能性が考えられた。 さらに、遺伝子発現プロファイルのクラスター解析により、一部のがん組織から樹立したオルガノイドにおいて、非がん組織由来のオルガノイドと同様の遺伝子発現プロファイルの結果を示すことが明らかになった。これらの症例では、オルガノイドの長期培養が不可能であった。以上の結果より、胆道・膵臓がんの手術検体を用いてオルガノイドを樹立する過程において、複数の症例でサンプル中に混在した非がん細胞ががん細胞よりも優位に増殖してオルガノイドを形成することが示唆された。がん患者由来のオルガノイドは、患者体内の腫瘍と同様な性質を示すため、従来の細胞株に比べ、より生体に近い環境での創薬研究を可能にすると考えられる。胆道・膵臓がん患者由来のオルガノイドは、難治性がんに対する個別化治療を実現する上で極めて強力な研究ツールとなるが、手術検体組織を用いてオルガノイドを樹立する際には、樹立したオルガノイドが非がん細胞ではなく、がん細胞由来であることを十分に確認する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オルガノイド培養により、1 年以上にわたり安定的に培養できる胆道・膵臓がんオルガノイド株をこれまでに複数樹立することに成功した。さらに、これらの樹立したがんオルガノイド株を用いて、ドライバー遺伝子変異を特定し、マイクロRNAを含む全遺伝子の発現変化をマイクロアレイによって網羅的に解析した。個々の症例において治療標的となり得る遺伝子やマイクロRNAの発現異常を特定しており、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられる。 一方で、予想外の結果として、研究実績の概要でも記載した通り、胆道・膵臓がんの手術検体を用いてオルガノイドを樹立する過程において、複数の症例でサンプル中に混在した非がん細胞ががん細胞よりも優位に増殖してオルガノイドを形成することが示唆された。 今後の課題としては、胆道・膵臓がん由来オルガノイドの樹立成功率を高められるように、培養条件を調整したり、がんの組織サンプルにがん細胞以外の細胞が含まれないように工夫をする必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究として、以下の実験を計画している。 【胆道・膵臓がんオルガノイドの樹立】前年度に引き続き、胆道・膵臓がん患者由来のオルガノイドを樹立する。その際に前年度の課題を克服するように樹立方法や培養条件を改変する。安定的な培養・維持が可能になった胆道・膵臓がんオルガノイドは、液体窒素にて凍結保存し、ストックを作製することで腫瘍細胞バンクを構築する。 【ドライバー遺伝子変異およびエピゲノム変化の解析】全エクソン解析により、それぞれの胆道・膵臓腫瘍オルガノイドにおけるドライバー遺伝子変異を特定する。また、バイサルファイト変換後およびクロマチン免疫沈降(ChIP)後のDNAを用いて次世代シーケンサー解析を行うことでDNAメチル化やヒストン修飾の異常を網羅的に探索する。これらのドライバー遺伝子変異やエピゲノム変化の結果をもとに、オルガノイド培養条件の最適化を行う。 【胆道・膵臓がんオルガノイドを用いた創薬スクリーニングの確立】胆道・膵臓がんの増殖を低濃度で効率良く抑制する低分子化合物を探索するために、樹立したオルガノイドを96ウェルまたは384ウェルプレートなどで培養することでハイスループットスクリーニングに適するアッセイ系を開発する。前年度までの研究により、既に複数の低分子化合物が胆道・膵臓がんオルガノイドの増殖を強力に抑制することを確認している。胆道・膵臓がん患者由来の腫瘍オルガノイドを用いて、既存薬ライブラリーによる薬剤感受性スクリーニングやドラッグ・リポジショニングを行うことで、胆道・膵臓がんに対する安全かつ効果的な治療薬の候補を特定する。以上から、個々の胆道・膵臓がん症例の病理組織学的・分子生物学的所見を統合し、それぞれの患者の特性に合致した核酸医薬や低分子化合物による効果的な個別化治療の開発を行う。
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[Journal Article] Induction of differentiation of intrahepatic cholangiocarcinoma cells to functional hepatocytes using an organoid culture system.2018
Author(s)
Saito Y, Nakaoka T, Muramatsu T, Ojima H, Sukeda A, Sugiyama Y, Uchida R, Furukawa R, Kitahara A, Sato T, Kanai Y, Saito H.
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 8
Pages: 2821
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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