2017 Fiscal Year Annual Research Report
マルチオミクス解析によるクマムシ乾眠機構の全体像の解明
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17H03620
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
荒川 和晴 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 准教授 (40453550)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | クマムシ / 乾眠 / トランスクリプトーム / リン酸化プロテオーム / ATAC-Seq |
Outline of Annual Research Achievements |
クマムシが乾燥シグナルを感知するカスケードを明らかにするため、事前に24時間程度のプレコンディショニングを必要とするHypsibius dujardiniにおいて重点的に解析を行った。まず、乾眠前後のトランスクリプトームにより、乾眠関連遺伝子がこのプレコンディショニング時に強く誘導され、最終的に常時これら遺伝子を発現しているヨコヅナクマムシなどと同等なレベルの発現となることを確認した。これは、同じヤマクマムシ科に属する2種のクマムシが、ほとんど共通する遺伝子コンポーネントを利用しながらも、その発現誘導のみによって乾燥応答の時間を変化させていることを意味し、その誘導過程が重要であることを強く示唆する。次に、プレコンディショニング初期(3h)の挙動を観察するため、この時点でのトランスクリプトーム解析とATAC-Seqによるオープンクロマチン領域の探索を行った。発現変動としてはこの時点ではまだ限定的であったが、その後の発現に繋がると考えられるオープンクロマチン領域も予想に反して特に増えた様子はなく、遺伝子発現誘導がプレコンディショニングの後期で起きている可能性が示唆された。さらに、乾眠誘導後0分、15分、60分、180分のリン酸化プロテオミクス測定により、AMPKシグナル経路の活性化が見られた。これは既に明らかとなっているHypsibius dujardiniプレコンディショニング時に必須であるPP2A脱リン酸化作用に強く関連していることが他の生物で示されており、乾燥シグナリングに重要な経路であることが示唆される。よって、乾燥初期にHypsibius dujardiniはある程度時間をかけて乾燥シグナルを核に伝え、その後大規模な発現誘導に繋げていることが考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的通り、クマムシが乾燥シグナルを感知するシグナル伝達経路を明らかにするため、トランスクリプトーム解析・リン酸化プロテオーム解析・ATAC-Seq解析などを行い、初期のシグナル伝達・発現誘導応答について全体像を観察できた。一方で、発現誘導が想定していたタイミングよりもより後期で起きていることが確認され、この点については次年度以降観測する時間スケールを広げて再解析する必要がある。一方、本年度想定外にチョウメイムシ科のクマムシの新種を発見し、これの飼育系の確立に成功したことから、これまでヤマクマムシ科に限定されていたクマムシの解析を打破できる。やや遠い系統の乾眠能力を持つクマムシが実験対象となることにより、その共通機構を調べることがより容易となった。次年度以降の解析ではこの新種のチョウメイムシの解析を加えることで、クマムシ乾眠のコアコンポーネントの同定を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
上に述べたように、時間スケールを変えたマルチオミクス解析の継続に加え、申請者らがこれまでに見つけてきた乾眠関連遺伝子の詳細な細胞防御機構を明らかにする。 これまでの発現実験から、CAHS・SAHS・MAHSなどの新規クマムシ特有のタンパクは、細胞内外のさまざまなコンパートメント への移行シグナルを持ち、特異的な局在パターンを示すことが明らかとなっている。超高発現でありかつ遍在するこれら遺伝子 は、膜及びタンパクの防御に何らかの形で関わっている可能性が高い。この詳細なメカニズムを解明するため、3つのin vitro アッセイを行う。 (1)Liposome binding assay: 各種脂質の組み合わせで、ミトコンドリア内膜・外膜・細胞膜などを模したリポソームを作製し 、発現・精製したクマムシ特有タンパクを混ぜ、リポソームとの共沈をin vitroで調べることにより結合する膜の種類を明らか にする (2)Liposome protection assay: 同様にリポソームを作製する際に、蛍光物質(carboxyfluorescein)を内包させ、発現・精 製したクマムシ特有タンパクと混ぜた後に乾燥させ吸水させることでリポソームの破裂度合いを蛍光測定により定量する (3)Nuclease protection assay: 各種制限酵素と発現・精製したクマムシ特有タンパクを混ぜた後に乾燥させ吸水させること で、制限酵素の失活度合いを定量し、制限酵素の保護度合いを明らかにする。
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