2017 Fiscal Year Annual Research Report
Structural and dynamical basis of taste receptor signaling mechanism
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17H03644
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
山下 敦子 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (10321738)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日下部 裕子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, ユニット長 (90353937)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 味覚 / 受容体 / 結晶構造解析 / 一分子計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
メダカ味覚受容体T1r2a/T1r3リガンド結合ドメイン(LBD)の結晶構造解析を行い、新たに2種類の重金属イオンがT1rLBDに結合することを明らかにし、それぞれの結合状態の結晶構造を3.3 Aおよび3.8 A分解能で決定した。X線異常分散ピークの検出および構造未解明部位も含めた細胞外全領域のモデル構築から、T1r味覚受容体細胞外領域における重金属イオン結合部位候補を複数見出した。受容体応答解析により、本課題実施前に結合を確認していたもの(未発表)、および本課題で結合を確認した1種類の、少なくとも2種類の重金属イオンが、受容体の味物質(アミノ酸)応答に対し阻害効果を示すことを明らかにした。 T1rLBDの構造動態解析を目的に、一分子蛍光共鳴移動(smFRET)解析を行うための試料として、メダカT1r2aLBDとT1r3LBDのN末端またはC末端にSNAP-tagやHalo-tagを融合させた試料の発現系を構築し、これらの精製条件および蛍光ラベル化条件の検討を行った。その結果、いずれの融合体においても野生型と同様に二量体として分泌発現することを確認し、精製条件および蛍光色素との反応条件を確立して、100%に近い高ラベル化率で両サブユニットを蛍光ラベル化できていることを確認した。このうちの1種類のサンプルを用いてsmFRET解析に必要となる基盤への固定条件を確立し、味物質であるアミノ酸存在下・非存在下でのsmFRET観察を試行して、測定条件検討を行った。 さらに、同じく構造動態解析を目的とし、共同研究によりT1r2a/T1r3細胞外領域の高速原子間力顕微鏡(AFM)観察を実施した。その結果、T1r細胞外領域は複数の異なるコンフォメーションのアンサンブルとして存在し、味物質の結合によりコンフォメーションの平衡が移動する構造動態を持つことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本課題実施前の味覚受容体の構造情報は、研究代表者らが解明したT1r2a/T1r3LBDの味物質結合状態のみであり、本課題の目標の1つが、異なる機能状態、特に阻害状態の構造を捉えることであった。本年度の研究実施により明らかにした重金属イオンのLBDに対する結合と受容体応答への阻害は、重金属イオンが細胞外領域に結合して受容体機能を阻害する可能性を示唆するものである。これまでT1r味覚受容体の細胞外領域に結合して受容体機能を阻害する物質は報告されていなかったが、重金属イオンはその初めての例となる可能性があり、本年度解明した結合状態構造は、阻害剤結合状態の構造を捉えられている可能性がある。この点において、研究が順調に進捗していると言える。 また、本課題のもう1つの目標が、smFRETによりT1rLBDの構造動態を解析することであった。本年度はsmFRET用の複数のコンストラクトを作製し、そのいずれも、適切に折りたたまれ発現していることを示す結果として、二量体として分泌発現することを確認した。また、精製・蛍光ラベル化条件および基盤固定条件など、今後smFRET観察を進める上での基盤条件を確立した。この点も研究がおおむね順調に進捗していると言える。 さらに、T1rの構造動態解析の観点からは、高速AFM鏡観察によりT1r2a/T1r3細胞外領域のコンフォメーションアンサンブルの存在と味物質結合によるコンフォメーション平衡移動を明らかにした。当初計画であるsmFRET解析の準備を達成したことに加え、別の解析手法でも構造動態観察に成功したことは、当初の計画を超えて進捗した点である。 以上から、計画の多くの項目においておおむね順調に進展しており、一部の項目で当初の計画を超えて進捗したことから、本課題は現在のところ当初の計画を超えて進捗しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
T1r阻害剤として作用する可能性を見出した重金属イオンについて、阻害機構を明らかにする研究を進める。具体的には、本年度見出した結合部位候補についてそれぞれ変異体を作製し、受容体の応答解析によりどの部位が阻害活性発現に重要であるかを同定する。また、熱測定などの手法を用いて、細胞外領域試料を用いた重金属イオンの結合解析を行う。さらに、他にどのような金属イオンが阻害効果を示すか、同様の阻害効果を示す金属イオン以外の化合物があるかを明らかにすることを目的に、受容体の応答解析を実施する。加えて、重金属イオン結合状態の結晶構造解析について、結晶作製条件の最適化を行い、現在得られているデータよりもさらに高分解能のデータ取得を目指す。応答解析などによりLBD内に阻害に重要な部位が明らかになれば、構造解析結果と統合し、阻害機構の解明に取り組む。 また、さらに異なる機能状態構造を捉えることを目的に、リガンド非結合状態のT1rLBD調製・結晶化条件の探索および最適化を行う。 本年度作製したsmFRET解析用試料を用いて、試料調製条件・解析条件などの最適化を行い、smFRET解析を進める。状況に応じ、本年度作製したものとは異なる部位に標識部位を導入した試料の作製および調製も行い、得られた試料を用いて順次解析への適応性を確認する。良好な試料が得られれば、各種条件下でのsmFRET計測を行う。結果が得られれば、コンフォメーション遷移のダイナミクスの解析を行うとともに、得られたsmFRETデータおよび結晶構造データをふまえたMDシミュレーション導入への準備作業を行う。 また、本年度得られた高速AFM解析データの論文発表を目指し、必要な解析を進める。
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Research Products
(8 results)