2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17H03653
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
阿部 一啓 名古屋大学, 細胞生理学研究センター, 准教授 (60596188)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 胃プロトンポンプ / 膜タンパク質 / 構造生物学 / 能動輸送体 / P-type ATPases |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、胃プロトンポンプの初めての高分解能構造解析に成功した。得られた構造は胃酸抑制剤が結合し、胃内腔側へイオン輸送経路が開いたE2P状態の構造であった。 この構造から、胃酸抑制剤の詳細な結合状態が理解できた。2種類の異なる化合物について構造解析し、これらの薬剤が部分的にオーバーラップするものの、明確に区別できる形で結合していることが示唆され、これは変異体を利用した機能解析によってクリアに検証された。 また、得られた構造は、カチオン結合サイトが胃内腔側にH+を放出した直後の状態であったことから、胃プロトンポンプがどのようにして胃の内部の酸性溶液(pH 1)に対してH+を放出することができるかが理解できた。カチオン結合サイトの構造で、まず目を引くのは、非常に近接した2つのグルタミン酸、Glu795とGlu820である(距離2.5 A)。これら酸性アミノ酸は通常負に帯電しているので、これらの近接構造は少なくともどちらか1つがプロトネーションされているということを意味する。Glu795Gln変異体は野生型とほぼ変わらない活性プロファイルを示すことから、この場合Glu795がH+を結合した状態であると考えてよいであろう。従ってGlu820はGlu795と水素結合を形成していることになる。この他にも、Glu820はAsn792や近傍の水と水素結合を形成しており、Glu820を中心とした水素結合ネットワークが形成されている。これに加えて、Lys791のアミノ基が、Glu820と塩橋を形成できる距離(3.1 A)に存在していた。このように、周りから多くの極性相互作用を受けているGlu820のカルボキシル基が置かれる特異な環境によって、これのpKa値が大きく下がる(つまりH+が解離しやすくなる)ことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究スタートの時点で三次元結晶が得られており、初年度で高分解能構造解析を達成する見込みであった。しかしながら、計画当初は想定していなかった、生理的に重要な分子機構を発見することができたので、計画以上の進展とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の構造はイオン輸送反応サイクルの1つのスナップショットであり、ダイナミックな構造変化をと伴う胃プロトンポンプの作動機構の理解には、少なくとも複数の別なコンフォメーションの構造を理解する必要がある。対向輸送イオンであるK+の結合が誘起する構造変化、H+を取り込むステートでの構造、ATPの加水分解が起こる仕組み、等々、様々なコンフォメーションにおける構造情報の取得を目指す。
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Research Products
(3 results)