2018 Fiscal Year Annual Research Report
栄養環境の変化に対する適応戦略と成長・代謝制御機構の解析
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17H03658
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
西村 隆史 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (90568099)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 生理活性 / シグナル伝達 / 内分泌ホルモン / 糖代謝 / インスリンシグナル / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、栄養状態の変化に応じた成長と代謝調節の制御機構を理解することである。成長と代謝の両方を制御する内分泌ホルモン、インスリン様ペプチドの作用は、栄養状態により厳密に制御されている。モデル生物キイロショウジョウバエを用いて、(1)栄養シグナルに応じたインスリン様ペプチド機能調節の破綻が引き起こす環境適応能の低下と(2)成長障害と代謝異常の相互関係、を包括的に解析する。これらの研究を通して、生物個体に備わっている栄養環境の変化に対する恒常性維持機構と適応戦略の解明を目指す。 2018年度は、インスリンシグナルの作用点の一つである貯蔵糖グリコーゲンに着目した逆遺伝学的研究を実施した。グリコーゲン代謝酵素の変異体を作成し、発育成長過程と老化過程における生理的役割について研究成果をまとめて発表した(山田ら、2019)。代謝産物を網羅的に解析するメタボローム実験系を構築し、グリコーゲン変異体における代謝変化を報告した。従来、成熟卵に貯蔵されている多糖グリコーゲンは、胚発生に必須の栄養源であると考えられてきた。しかしながら、完全機能欠損変異体を用いた本研究により、グリコーゲンは胚発生時の栄養源として使用されている訳ではなく、血糖トレハロース合成のためのグルコース源となっていることを明らかにした。これまでの研究で、トレハロースそのものも、胚発生に必須ではないことを明らかにしている(松田ら、2015)。よって、母体の栄養源から投資される成熟卵グリコーゲンは、孵化した幼虫の栄養環境への適応に関わる戦略であることが明らかになった。 また、研究の過程で脂肪体のグリコーゲン代謝は、発育成長段階により異なることを見いだした。同様に、血糖トレハロース代謝や貯蔵脂肪の代謝も、発育時期に応じて栄養環境の変化に対する生理応答が異なることを見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
発育成長過程により飢餓応答の代謝変化が起こることは、当初予期していなかった結果である。代謝変化を引き起こすシグナル経路と生理的意義を明らかにすることで、生物個体に備わっている環境適応への恒常性維持機構の理解がさらに深まると思われる。よって、当初予定していた研究計画に対して、順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
ショウジョウバエ幼虫期は、飢餓応答の観点で大きく二相に区分される。前半は、飢餓時に成長を停止して貯蔵栄養を消費しながら生存する可逆的なステージである。後半は、蛹期の変態に向けた計画的な発育段階で、このステージに入ると、栄養状態に関わらず、一定時間後に蛹期に突入する。申請者は、網羅的なメタボローム解析を実施し、後半の不可逆的なステージになると、貯蔵糖のグリコーゲンやトレハロースの消費が抑制されることを見いだした。そこで、発育成長過程における代謝リモデリングの分子基盤を解明するために、生化学、遺伝学、生理学的手法を組み合わせて、今後は次の3点を中心に研究を推進する。1)貯蔵糖の分解抑制の分子基盤を明らかにするため、代謝酵素の活性制御機構について調べる。2)代謝リモデリングの生理的意義を明らかにするため、蛹期における貯蔵栄養の重要性を逆遺伝学的手法で検討する。3)代謝リモデリングにおけるインスリンシグナルの関与を明らかにする。これらの研究を通して、発育成長過程における時期特異的な代謝恒常性維持の仕組みを追求し、栄養環境の変化に対する生物の適応戦略を明らかにする。
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