2017 Fiscal Year Annual Research Report
光合成による水分解:プロトン共役電子移動の分子機作
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17H03662
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
野口 巧 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (60241246)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉浦 美羽 愛媛大学, プロテオサイエンスセンター, 准教授 (80312255)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 光合成 / 水分解 / 酸素発生 / 赤外分光法 / 電子移動 / プロトン移動 / 量子化学計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
光化学系Ⅱにおける水分解反応の分子機構について、赤外分光解析による研究を行い、以下の成果を得た。 1.時間分解赤外分光法を用いて、水分解反応におけるS2-S3遷移の電子・プロトン移動反応の詳細を調べた。その結果、この遷移では約350 μsでプロトン移動律速の電子移動反応が起こることが示された。 2.光誘起偏光赤外全反射吸収法により、Mnクラスターの架橋酸素と相互作用するヒスチジン残基(D1-His337)のプロトン化構造を調べた。その結果、His337は、水分解反応の中間状態サイクル(S状態サイクル)を通して、常にプロトン化したカチオン型として存在していることが示された。また、QM/MM法を用いた量子化学計算により、このヒスチジンカチオンの正電荷が、Mnクラスターを高い電位に保ち、水分解能の発現に重要な役割を果たしていることが示された。 3. YZ近傍の水素結合ネットワークが水分解反応における役割を明らかにするため、YZ近傍に存在するD1-Asn298のAla変異体を作成し、熱発光・遅延蛍光および赤外分光測定を行った。その結果、この変異により、S2-S3、S3-S0遷移が阻害されることが示され、YZ近傍の水素結合ネットワークがこれらの遷移におけるプロトン放出経路として機能していることが示唆された。 4.表在性タンパク質PsbP, PsbQを除去し、さらにCl-をNO3-で置換した光化学系Ⅱ試料について、S1-S2遷移における構造変化を赤外分光解析により調べた。その結果、これらの表在性タンパク質の結合が、Mnクラスター近傍のCl-結合部位の構造を変化させることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度に予定していた研究はほぼ遂行し、論文として投稿することができた。特に、Mnクラスター近傍のD1-H337、YZ近傍のD1-Asn298に関して、赤外分光解析により、これらの残基の水分解反応における重要性を示すことができたのは、非常に大きな成果であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
時間分解赤外分光法を用いて、さらに他の中間状態遷移におけるプロトン放出と電子移動の時間挙動を調べ、プロトン共役電子移動機構を明らかにする。特に、これまで研究がほとんど進んでいない、S0→S1遷移に注目して研究を行う。また、水分子の取り込み過程およびプロトン放出過程を調べるため、メタノールやエタノールなどの水分子ホモログを用いた研究を本年度に引き続き行い、これらの小分子の結合が影響を与える中間状態遷移を特定する。さらに、赤外分光計測とQM/MM計算を用いて、Mn除去タンパク質へのMnイオン結合部位を調べ、Mnクラスターの生成過程を調べる予定である。
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Research Products
(31 results)