2018 Fiscal Year Annual Research Report
光合成による水分解:プロトン共役電子移動の分子機作
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17H03662
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
野口 巧 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (60241246)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉浦 美羽 愛媛大学, プロテオサイエンスセンター, 准教授 (80312255)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 光合成 / 水分解 / 酸素発生 / 光化学系Ⅱ / プロトン移動 / 赤外分光 / 部位特異的変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
光化学系ⅡのMn4CaO5クラスターにおいて行われる光合成水分解反応の分子機構について、変異体作製、赤外分光解析、および量子化学計算を用いた研究を行い、以下の成果を得た。 1.メタノール、エタノール、2-プロパノールなど低分子アルコールの光合成水分解反応への効果を、フーリエ変換赤外差分光法および時間分解赤外法を用いて調べた。その結果、これらのアルコールはMn4CaO5クラスター近傍の水分子チャネルに結合し、プロトン放出および水分子の取り込みが起こる、S2-S3およびS3-S0遷移を阻害されることが示された。この結果から、プロトンおよび水分子の移動経路に関する知見が得られた。 2.水分解反応の最初の酸化ステップであるS0-S1遷移における電子・プロトン移動過程を時間分解赤外光を用いて調べた。その結果、S0-S1遷移では電子移動律速のプロトン共役電子移動がS状態遷移では最も速い速度(~45 μs)で起こることが示された。このことから、O4から続く水分子鎖がS0-S1遷移のプロトン移動経路であることが示唆された。 3. Mn4CaO5クラスターのO5の近傍に位置するD1-Val185を置換した組換え体を作製し、その反応を調べた。その結果、この変異によって水の酸化機能、特にS3→S0の反応速度が大きく低下し、さらにS1→S2でもプロトンが放出されることを見いだした。 4. 光化学系Ⅱタンパク質中にMn4CaO5クラスターを構築する光活性化過程において、最初にMn2+が結合する位置を、quantum mechanics/molecular mechnics法を用いた量子化学により予測した。その結果、Mn2+は、従来の説(Mn4)とは異なり、D1-H332が配位するMn1部位に最初に結合することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最も検出が困難なS0-S1遷移での電子・プロトン移動過程を明らかにしたことにより、4つの全遷移(S0-S1, S1-S2, S2-S3, S3-S0)でのプロトン共役電子移動反応のキネティクスを決定することができた。また、プロトン移動経路、Mn4CaO5クラスターの構築過程、Mn4CaO5クラスター近傍のアミノ酸側鎖の役割について、重要な知見を得ることができ、水分解機構の解明に大きく近づいたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.S2-S3遷移において提唱したプロトン放出機構を確認するため、D2O置換した光化学系Ⅱタンパク質を用いて、時間分解赤外測定を行い、同位体効果を調べる。 2.O-O結合形成の部位として、Mn4CaO5クラスターのO5部位とO4部位の可能性が議論されている。そこで、O4と直接相互作用する水分子と水素結合するD1-Ser169をアラニンに置換したD1-S169A変異体を作製し、その反応をフーリエ変換赤外差分光法や時間分解赤外法を用いて調べる。 3.Mn4CaO5クラスターのアミノ酸配位子の水分解反応における役割を明らかにするため、 Mn4とCaを架橋するカルボキシル配位子を提供するD1-Asp170をヒスチジンに置換したD1-D170H変異体を作製し、Mn4CaO5クラスターの形成および水分解反応への影響を調べる。
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Research Products
(41 results)