2019 Fiscal Year Annual Research Report
光合成による水分解:プロトン共役電子移動の分子機作
Project/Area Number |
17H03662
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
野口 巧 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (60241246)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉浦 美羽 愛媛大学, プロテオサイエンスセンター, 准教授 (80312255)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 生物物理 / 光合成 / 赤外分光 / 水分解 / 電子移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
光化学系ⅡのMn4CaO5クラスターにおいて行われる光合成水分解反応の分子機構について、近傍アミノ酸の変異体の赤外分光解析により、以下の成果を得た。 1. 好熱性シアノバクテリアT. elongatus のYD欠損変異体(D2-Y160F)から調製した光化学系Ⅱタンパク質について、S2-S3遷移の電子・プロトン移動速度のpH依存性を時間分解赤外分光法を用いて調べた。その結果、より低いpHにおいて、~350 μsの速度成分が著しく遅延することが示され、この成分がプロトン移動律速の電子移動反応によることを明らかにした。 2.架橋酸素O4に水素結合する水分子と相互作用するセリン残基(D1-Ser169)をアラニンに置換したD1-S169A変異体を作成し、その反応を光誘起フーリエ変換赤外(FTIR)差分光法、時間分解赤外分光法および熱発光を用いて調べた。その結果、この変異により、Mn4CaO5クラスターの酸化還元電位は低下するものの、各中間状態遷移の効率および速度には大きな変化は見られなかった。このことから、O4サイトは水分解の触媒反応に直接関与していないが、S0-S1遷移でのプロトン放出経路としての役割を果たしている可能性が示された。 3. Mn4CaO5クラスターにおいてMnとCaを架橋するD1-Asp170をヒスチジンに置換したD1-D170H変異体を作成し、その光化学系Ⅱタンパク質を光誘起FTIR差分光および質量分析によって解析した。その結果、変異導入されたHis側鎖が、主に元のAsp側鎖に変換され、野生株と同様のFTIRスペクトルが観測されることが示された。これは、これまでに知られていない、Mn結合サイトに特異的な光誘起アミノ酸変換である可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水分解反応における水分子・プロトン移動経路については、D1-Asn298やD1-Ser169などのMnクラスター近傍の変異体の赤外分光解析が予定通りに進んでいる。時間分解赤外法を用いた、反応機構の研究も予定通りに進み、S2-S3遷移における、プロトン移動律速の電子移動機構、およびS0-S1遷移での電子移動律速のプロトン共役電子移動を初めて検出することができた。さらに、アミノ酸配位子についての研究において、その変異体の光変換の観測という予想外の成果も得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、シアノバクテリアの変異体を用いて、水分解反応における、プロトン移動・水分子取り込み機構とその経路、およびアミノ酸配位子の構造についての研究を進める。 (1)S2-S3遷移におけるプロトン・水分子移動機構:YZチャネル上に位置するD1-N298をAlaに置換したD1-N298A変異体を用いてフーリエ変換赤外分光解析、時間分解赤外解析、熱発光測定を行い、S2-S3遷移におけるN298A変異の効果を調べる。さらに、野生株およびD1-N298A変異体の光化学系ⅡにおいてClチャンネルを形成するClイオンを硝酸イオンに置換した試料について同様の測定を行い、硝酸イオン置換の効果を調べる。これらの結果から、S2-S3遷移におけるプロトン放出および水分子取り込みがどの経路で行われるかを明らかにする。 (2)S0-S1遷移におけるプロトン・水分子移動機構:異なるプロトン化構造を持つS0状態のモデルについて、Mn4CaO5クラスターの近傍タンパク質を取り込んだ、quantum mechanics/molecular mechanics(QM/MM)計算を行う。その結果から、S0-S1遷移の赤外差スペクトルをシュミュレーションし、実測の光誘起FTIR差スペクトルと比較によって、S0状態におけるMn4CaO5クラスターのプロトン化構造を明らかにする。そのプロトン化構造に基づいて、S0-S1遷移におけるプロトン移動経路を予測し、それを検証するための変異導入を計画する。 (3)アミノ酸配位子の光変換:Mnイオンのカルボキシル配位子の変異体におけるアミノ酸変換の機構を、アミノ酸の同位体置換体を用いた解析や、他のアミノ酸への変異の効果などによってさらに追求する。
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Research Products
(31 results)
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[Journal Article] An alternative plant-like cyanobacterial ferredoxin with unprecedented structural and functional properties2019
Author(s)
T. Motomura, L. Zuccarello, P. Setif, A. Boussac, Y. Umena, D. Lemaire, J. N. Tripathy, M. Sugiura, R. Hienerwadel, J.-R. Shen, and C. Berthomieu
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Journal Title
Biochim. Biophys. Acta Bioenergetics
Volume: 1860
Pages: 14804
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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