2017 Fiscal Year Annual Research Report
変異チューブリンによる重合―GTP加水分解の共役メカニズムの解明
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17H03668
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
武藤 悦子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, チームリーダー (90373373)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今井 洋 大阪大学, 理学研究科, 助教 (60391869)
上村 慎治 中央大学, 理工学部, 教授 (90177585)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 微小管 / 重合キネティクス / GTP / 核形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
微小管の重合・脱重合はGTPの結合や加水分解によって制御され、細胞の形態維持や変形、染色体分裂などに重要な役割を果たしている。微小管はGTPの加水分解に伴い伸長と短縮の間を行き来する二相性を示すことが知られているが、その分子機構についてはまだ多くの基本的なことがわかっていない。本研究では申請者が世界にさきがけて開発した組み替え体チューブリン発現の技術を利用して、変異によりGTP 加水分解反応に変調を与え、変異微小管の重合、GTP 加水分解、重合生成物の構造を解析し、GTP 加水分解と重合の共役メカニズムを解明する。 1990年代の構造の仕事によれば、チューブリンはGTPの結合に伴って、曲率の高いcurvedの構造からstraightな構造へと変化していることが予想される。しかし、これまでの溶液実験では、そのような構造変化は検出されず、微小管研究者の間では最大の謎とされてきた。最近では、Riceらによって「GTPはチューブリンの構造を制御しておらず、微小管のラティスがチューブリンの構造変化を誘導している」とする、ラティスモデルも提案されている(Rice et al., 2008, PNAS)。 今年度我々は、β-チューブリンのGTP結合サイトに特定の変異を加えると、チューブリンダイマー間の縦方向の結合が強化され、核生成レートが増加すること、その際、チューブリンのcurvedとstraightのコンフォメーションの間のゆらぎが、straightの側にシフトしていることを見出した。本研究は、長期にわたる混乱に終止符を打ち、我々の理解を一歩前に進めるものである(論文準備中)。チューブリンのcurvedからstraightへの構造変化が、GTP結合に伴うチューブリン同士の縦方向の結合やオリゴマー同士のラテラルな相互作用に、どのような効果を持っているか、解析をすすめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では我々が開発した昆虫細胞とバキュロウイルスを組み合わせた発現系を利用して(Minoura et al., 2013, FEBS Lett.)、ショウジョウバエの組み換え体チューブリンを発現させ、微小管の重合に重要なGTP結合サイトの近傍に変異を導入した2種類のミュータントを作成した(それぞれタイプ1、タイプ2と命名)。これらのミュータントは、チューブリンの結晶構造解析で得られた情報(Nawrotek et al., 2011, J. Mol. Biol.)を基にデザインしたもので、タイプ1においてはβチューブリンのT5ループが結合ヌクレオチドと無関係にflip outし、チューブリン同士が縦方向に結合しやすくなることが期待される。タイプ2では、T5ループの酸性アミノ酸が中性アミノ酸に置換され、その結果、チューブリン同士の縦方向の結合が起こりにくくなることが期待される。 それぞれのミュータント・チューブリンを精製し、重合を濁度の経時変化で追ったところ、タイプ1では野生型に比べ核生成が加速し、平衡状態における臨界濃度が減少していた。一方タイプ2では逆に核生成速度が低下し臨界濃度が増えていた。驚いたことに、重合初期に微小管と溶液中で共存しているチューブリンの構造を調べると、タイプ1では野生型に比べ著しく曲率が減少していた(=straight)。ネガティブ染色電子顕微鏡法を用いた観察の結果、タイプ1のチューブリンは、オリゴマーを作りやすいこと、オリゴマー同士がラテラルに相互作用して2ストランドのオリゴマーを形成すること、時間と共にさらに大きなシートや微小管へと成長していくことなどが、明らかになった(論文準備中)。タイプ2における重合とGTP加水分解反応の関係についても順調に解析が進んでおり、平衡状態における加水分解反応とチューブリンの構造変化の共役のしくみに迫りつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、2つの問題に焦点を絞って仕事を進める予定である。1つは、GTP状態のコンフォメーションは単一か複数か? という問題。タイプ1チューブリンの挙動を詳細に分析すると、加水分解前のGTP状態に、既に複数のコンフォメーションが存在する可能性が疑われる。これまでに報告された生化学実験のデータを検討すると、「GTP結合チューブリンは複数のコンフォメーションの間をゆらいでいる」という解釈も可能である。この仮説の真偽を明らかにするため、我々は、straightのコンフォメーションが、野生型のショウジョウバエのチューブリン(あるいは豚脳から精製したネイティブ・チューブリン)でどのようなときに出現するのか、調べる。 1つ目の問題は、2つ目の「GTPの加水分解反応は何とカップルしているか?」という問題とも強く関連している。現在主流のGTPキャップモデルでは、加水分解は脱重合に必要であると説明されているが、これは重合初期に[核形成+伸張]している微小管における重合と加水分解の関係を、重合後期[伸張+カタストロフ+縮小]している状態の微小管にあてはめたもので、明らかな矛盾がある。我々は、タイプ1、タイプ2それぞれのダイナミクス(重合臨界濃度、カタストロフのチューブリン濃度依存性)、化学反応(GTP加水分解速度、微小管中のチューブリンの各ヌクレオチド状態の存在比率)、構造(微小管のラティス、チューブリンの構造)を調べ、それらを総合して、どのヌクレオチド状態でカタストロフが起こりやすくなっているか、明らかにする。
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Research Products
(6 results)