2018 Fiscal Year Annual Research Report
Molecular mechanisms of cell cycle regulation supporting plasticity in plant growth
Project/Area Number |
17H03696
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
伊藤 正樹 金沢大学, 生命理工学系, 教授 (10242851)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
町田 泰則 名古屋大学, 理学研究科, 名誉教授 (80175596)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 細胞周期 / 細胞分裂 / 植物細胞 / シロイヌナズナ / 転写制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
・MYB3RやE2Fを含む大きなタンパク質複合体DREAM complexは、細胞周期遺伝子を統合的に制御する転写因子複合体として注目されている。シロイヌナズナのe2fabc三重変異体を用いてRNAseq解析を行ったところ、DNA複製に関わる遺伝子群の発現が顕著に上昇していることがわかった。以前に行った三重変異体の表現型解析の結果と合わせて、E2Fの主要な働きはS期遺伝子の転写抑制による細胞分裂の抑制であると考えられた。また、種々の組み合わせの二重変異体を同様にRNAseq解析したところ、S期遺伝子の上方制御に加え、e2fa e2fb二重変異体では、上方制御と下方制御の両方が観察された。これらの結果から、E2Fには転写活性化と抑制の両方の機能を担っており、器官の発達段階やE2Fファミリーメンバーによってその働きが異なることが予想された。 ・細胞周期制御に重要なユビキチンリガーゼ複合体APC/Cを阻害する植物特異的タンパク質GIG1について研究を行った。昨年度までに単離したgig1抑圧変異体に加え、防御応答への関与が報告されているCRP5を抑圧変異として新たに同定した。CPR5は植物に特異的な核膜孔複合体(NPC)の構成因子として考えられているため、核内外の輸送と細胞周期制御を結ぶ新しい制御機構が存在する可能性が示唆された。 ・細胞周期を抑制することにより細胞サイズを正に制御するGRAS型転写因子E1Mの作用メカニズムに関する研究を行った。E1Mとその相互作用因子であるAP2型転写因子について網羅的な標的遺伝子の探索を予備的に行い、複数のSIM/SMR遺伝子を共通のターゲットとして同定した。また、一過的発現系おいて、E1MとAP2の共発現がSMR2プロモーターを有意に活性化することから、この2つのタンパク質による複合体形成が転写活性化に重要であると考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・シロイヌナズナE2F遺伝子の単独変異体、二重変異体、および三重変異体を全ての組み合わせで作出し、網羅的な遺伝子発現を明らかにすることにより、E2Fファミリーの転写因子としての働きを包括的に明らかにすることできた。E2F三重変異体においてS期遺伝子の顕著な上方制御が起きること、細胞分裂や器官成長が促進されることから、E2Fによる転写抑制は器官発生において細胞が分裂を停止するタイミングを遅らせたり、細胞が分化状態に移行するために重要であると考えられた。E2Fの機能が概して細胞分裂を抑制することであるという発見は、これまでのコンセンサスを修正するものであり、この分野に新たな洞察を与えることができた。 ・gig1表現型を抑圧する変異として新たにCPR5を同定した。CPR5が植物に特異的な核膜孔複合体構成因子であること、また、gig1表現型を強く促進する変異の原因遺伝子SAC3Aが核膜孔複合体と相互作用して機能するmRNA核外輸送因子をコードしていることから、mRNAの核外輸送とAPC/C活性制御との間に何らかの未知の機能的関連性が存在するという仮説を提案するに至った。近年、mRNA核外移行が遺伝子特異的に制御されているという考え方が報告されており、本研究の結果は、mRNA核外輸送制御による細胞周期制御という新しい概念の発見に繋がる可能性を秘めた成果である。 ・GRAS型転写因子には植物ホルモンや形態形成における重要な調節因子が多く含まれているが、どのような分子機構で標的に作用しているのかはよく理解されていない。本研究では、GRAS型転写因子がAP2型転写因子と相互作用して標的遺伝子に結合すること、GRAS型転写因子の作用にはこのAP2型転写因子を必要とすることを示しており、GRAS型転写因子作用機構を理解する上で新たな手がかりを得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
E2F転写因子の働きとして、標的遺伝子の転写活性化と抑制の両方があることが示唆された。このようなE2Fの機能は発生段階に依存している可能性があるため、異なる発生段階のe2f多重変異体を用いて、網羅的な遺伝子発現解析を行う予定である。また、E2Fの機能をゲノムレベルで解明するには、変異体における遺伝子発現と合わせてChIPseqなどによる全ゲノム解析を行う必要がある。また、他のDREAM complex構成因子の変異体の遺伝子発現を解析し、e2f多重変異体と比較することにより、DREAM complex形成がE2Fの機能に占める寄与の程度を調べることも重要である。このような研究と合わせて、DREAM complex構成因子のGFP融合タンパク質発現株の作出を進め、これらを用いたChIPseq解析を行う予定である。 cpr5やsac3a変異によりgig1表現型が強く影響を受ける原因として、これらの変異が核外mRNA輸送に影響している可能性が考えられる。この可能性について検証するため、cpr5やsac3a変異体の核内mRNAと細胞質mRNAを細胞分画法などにより分けて抽出し、RNAseqによる網羅的な発現解析を行う予定である。また、リボゾームプロファイリングなどの手法による翻訳中mRNAの網羅的解析も同様に有効であると考えられる。最近、海外のグループから、シロイヌナズナのCDC20 mRNAは核内にリテンションされていることが報告されている。CDC20はGIG1と直接相互作用することにより拮抗的に機能するAPC/C活性化因子であることから、このCDC20の核外輸送制御がcpr5やsac3a変異により影響を受けている可能性がある。つまりCDC20 mRNAの核外輸送を通じて細胞周期を制御する新しい仕組みが存在する可能が考えられる。この可能性についても今後検証を行う予定である。
|