2018 Fiscal Year Annual Research Report
Plant-insect interaction around evolution of chemical defence
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17H03709
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
尾崎 まみこ 神戸大学, 理学研究科, 教授 (00314302)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 化学防除 / 昆虫―植物相互作用 / 共進化 / 化学感覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物-昆虫間の相互戦略の共進化は生物学の重要課題であるにも関わらず、植物学と動物学が緊 密に連携してこれに取り組んだ例は少ない。 本研究では、共進化を駆動する植物側の化学防御機構と防御物質を察知する昆虫側の化学情報認知機構の攻防に着目し、“植物の進化を模して昆虫に疑似体験させる実験”を通して、植物-昆虫間の化学的相互戦略の進化についての理解を深めることが目的である。研究期間を通しての狙いは、遺伝子操作で植物側の化学防御機構を先祖返りさせ、新旧の化学防御機構に対する昆虫側の対応を神経行動学的な手法で比較検討する点にある。 今年度は、イソチオシアネートを昆虫防除物質として生成する野生型のシロイヌナズナcolumbia系統と、液胞中に前駆体を持たないqKO系統、前駆体からイソチオシアネートを生成する酵素を持たないBglu系統、酵素を格納する細胞内小器官をもたないnai1系統を準備した。それぞれの実生の植物体が食害された時に出てくる「におい」をショ糖餌とともに与えて、ハエの食欲を調べたところ、野生型columbia系統の「におい」が存在すると、その「におい」がないときの50%~25%まで食欲が減退すること、突然変異系統の「におい」が存在してもそのような食欲減退は起きないことを明らかにした。また、5日間、columbiaの「におい」のついたショ糖を与えて食餌経験をさせたハエは、columbiaの「におい」によって引き起こされる食欲の減退の度合いが有意に軽減されることも分かった。 一方で、シアノグルコシドを生成する進化的に古い化学防除システムを有するミヤコグサの実生を代わりに使って同様な実験をした場合、「におい」による顕著な食欲減退はみられなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昆虫に対する化学防除システムに関するシロイヌナズナの突然変異系統の選定と準備がスムーズであったので、これを待つ時間を考慮せずに、昆虫を使った実験に入れたことは、大変良かった。 現存するシロイヌナズナの防除化学物質であるイソチオシアネートを生成できる野生系統は、匂いだけで昆虫の食欲を半減させることが分かったことは、大きな成果であった。 進化的に古い形の昆虫防除システムを持つ植物の防除物質がシアノグルコシドであることから、同じバックグラウンドを持ちながらイソチオシアネートに代えてシアノグルコシドをもつ植物サンプルをどのように準備すればよいかについて問題ではあったが、見通しが立ったために、研究が大きく停滞することはないと考える。 今後の研究の推進方策も順当に立てることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、シロイヌナズナの化学防除システムの「におい」に注目して、においづけをしたショ糖餌の食欲測定の実験を主に行ってきたが、ハエがその「におい」を忌避するか、化学走性を調べるとともに、columbiaの「におい」のついたショ糖を与えて食餌経験をさせたハエは学習によって化学走性が変化するかを調べる。また、この「におい」がどの嗅覚器を通して脳のどの領域を活性化するかを明らかにする。 次に、シロイヌナズナの化学防除システムの「味」に注目した実験を展開する。嗅覚器を切除したハエを使い、シロイヌナズナの実生破砕液で味つけをしたショ糖で食欲比較を行う。シロイヌナズナの実生破砕液で刺激を行い、味受容神経レベルで毒や苦味を検出する神経の応答を定量的に測定する。 一方、イソチオシアネートではなくシアノグルコシドを生成させるシロイヌナズナの実験系を作って、columbiaの破砕液とシアノグルコシド生成系の破砕液をそれぞれハエに経口摂取させて食欲だけでなく、致死率や寿命を比較する。また経口摂取ではなく注射投与した時の致死率や寿命も比較する。 次年度は、本研究の最終年にあたるので、研究成果をまとめて論文を投稿する。
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