2017 Fiscal Year Annual Research Report
動物のGPSを支える光駆動型地磁気受容体分子の構造と機能
Project/Area Number |
17H03710
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
岡野 俊行 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40272471)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | クリプトクロム / 光受容体 / 磁気受容 / モノクローナル抗体 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請書に記載の研究計画に基づき下記の研究を行った。 【1】光・磁気受容体クリプトクロムの立体構造の決定:立体構造推定をより効率的に進めるため、これまでに構築した精製方法を改良した。具体的には、発現する酵母株の検討、タグの変更、培養条件の変更、スケールアップを行い、mgレベルのクリプトクロムを得る方法を確立した。さらに、精製段階を増やし、高純度かつ大量のCRY4を得た。これを用い、光条件を含めて、数百の条件を検討したが、結晶は得られなかった。そこで、タンパク質内でゆらぎをもつと推定されるC末端領域を削った多数の変異体を用いてさらに検討を進めると共に、結晶化に替わる構造推定手段としてMD計算を進めている。 【2】光・磁気受容体クリプトクロムの光反応機構の解析:光反応機構の詳細を検討するために、発色団近傍のアミノ酸を置換した多数の変異体を作製した。酵母を用いて精製方法を検討し、得られたタンパク質を用いて光反応サイクルを検討した。その結果、Asn391の変異により、ラジカル生成効率が大きく影響を受けることなどが判明し、この結果を元にラジカル形成機構を推定した。また、ゼブラフィッシュなどに存在する多数のクリプトクロム分子の発現系を構築し、それらの高純度精製法を確立した。 【3】光・磁気受容体クリプトクロムの光依存的な磁気応答反応の検出:クリプトクロムの磁気応答反応の検出に向けてまず、精製したタンパク質を用いた光反応のリアルタイム検出方法を検討した。ELISA法や蛍光検出による光反応の解析、および可視分光解析によるラジカル中間体の詳細な解析を行い、ラジカル形成に及ぼす種々の反応条件を検討した。また、光・磁気依存的な構造変化を認識できるC1モノクローナル抗体に関して、ハイブリドーマより抗体分子のcDNAを単離し、一本鎖抗体を大腸菌で発現、さらに精製して活性のある状態で再生することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究1において、クリプトクロムの結晶化を行う予定で研究を進めた。当初に確立した精製方法では、結晶が見られず、そのため、培養株、発現方法、精製タグ、精製スケールなどを全面的に見直し、結晶化の専門家と日々協議しながら実験を進めた。残念ながら現在までに、結晶は得られていないものの、高純度に大量精製する方法を構築することができ、他のさまざまな物理化学的解析に耐え得る質および量の試料を得ることに成功した。こうして得られた試料を用いて現在、高速分光解析等の共同研究を進めており、興味深い成果が得られつつある。 また、精製方法の詳細な検討により、CRY4以外のCRY分子の精製にも成功し、広くCRYファミリー分子の発現・精製系が完成しつつある。このようにして得られた試料を用いて光反応サイクルの比較解析が可能となった。また、変異体の発現に際して、MDシミュレーションによる構造予測を行い、発色団近傍の構造も予測することができた。予測構造を元にした変異体により興味深い成果も得られている。 上記のように、結晶化は未だ成功していないものの、そのための試料作りや試行錯誤で得られた成果によって、当初予期しなかった多くの成果も得られ、別の共同研究も発展しつつある。以上を総合して、概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
結晶化に関しては、さらに詳細な条件検討を行う。具体的には、結晶化の際の光条件、光や磁気の刺激により構造変化すると推定されるC末端近傍を削除したタンパク質の作製を行う。また、結晶化は必ずしも成功する保証はなく、さらに幸いにしてCRYファミリーは構造の保存性が高いため、C末端ドメインとN末端ドメインのドッキングシミュレーションを含め、これまでに得られた生化学的な知見を含めた高度な構造予測を行う。 これと関連して、C末端近傍を削除したタンパク質とC末端付近のみのタンパク質をそれぞれ再構成し、両者の試験管内での相互作用検出を試みたい。これにより、光依存的な結合を試験管内で実現できる可能性があり、クリプトクロムの機能解析と同時に光・磁気依存的なスイッチ分子としての利用が検証できる。 初年度の研究により、光反応を調べた例はほとんどなかった脊椎動物のクリプトクロムファミリー分子の発現が可能となってきたので、渡り鳥を含め、磁気受容能をもつ脊椎動物のクリプトクロムの発現部位の解析と、発現タンパク質の解析を広く比較解析することを推進する。 さらに、試験管内での磁気受容能の検出に向けて、光・磁気依存的な構造変化をリアルタイムで捉える技術の確立が重要であり、そのために、発現タンパク質および抗クリプトクロム抗体の一本鎖抗体の精製、再構成技術の改良・確立を推進する。
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