2017 Fiscal Year Annual Research Report
初期翻訳系で使われたアミノ酸種類の時系列変化に関する研究
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17H03716
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
赤沼 哲史 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (10321720)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
横堀 伸一 東京薬科大学, 生命科学部, 講師 (40291702)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 生命の起源 / アミノ酸組成 / 初期進化 / 原始タンパク質 / 翻訳系 |
Outline of Annual Research Achievements |
Arc1-13は、13アミノ酸種だけから構成されたアミノ酸組成単純化型ヌクレオシド二リン酸キナーゼの一つで、C, F, I, M, Q, T, Wを持たない。Arc1-13Mも同じく13アミノ酸種だけから構成されたアミノ酸組成単純化型改変体でC, K, M, Q, S, T, Wを持たない。本研究では、Arc1-13の91番目のアミノ酸残基をTに、131番目のアミノ酸をFに戻したArc1-13+TFと、Arc1-13Mの9番目のアミノ酸をKに、91番目のアミノ酸をTに、117番目のアミノ酸をSに戻したArc1-13M+KSTを作製した。熱変性解析とリン酸基転移活性の測定をおこなったところ、Arc1-13+TFはArc1-13と比べて変性温度が7℃回復し、Arc1-13+TFの比活性もArc1-13の13倍以上に向上することを見出した。また、Arc1-13M+KSTはArc1-13Mと比べて変性温度が5℃回復し、Arc1-13M+KSTの比活性もArc1-13Mの17倍以上に向上することも見出した。 以上の結果は、アミノ酸種類の拡大によって原始タンパク質の安定性や機能が向上し、その結果、宿主生物のフィットネスを向上させることで生物の初期進化の駆動力になった可能性を示唆するものである。 さらに、アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)ついては、IleRS、ValRS各々の共通祖先、IleRSとValRSの共通祖先のアミノ酸配列を推定した。IleRS共通祖先とValRS共通祖先のアミノアシル化活性測定では、tRNA、ATP、ピロフォスファターゼ存在下で各々アミノ酸としてIleとValを加えたときにのみ、リン酸の生成を見た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遺伝情報と生物機能をリンクさせる翻訳系は、生命現象を支える生体高分子である核酸とタンパク質を結びつける地球型生物に必須のシステムである。したがって、翻訳系の起源と進化は、生命の起源を理解するうえでの最重要課題の一つであると言える。現存生物が共有する現在の翻訳系がいかなる進化の過程も経ずに原始生命上で突然成立したとは考えづらく、初期の生物は20種類未満のアミノ酸だけからタンパク質を合成していた可能性が指摘されている。本研究では、核酸関連酵素の祖先型復元体から網羅的にアミノ酸種類を減らすことによって、標準遺伝暗号表の成立経緯とも密接に関連する未解決課題である、翻訳系成立途上においてタンパク質合成に使われたアミノ酸種類の時系列変化を探ることを当初の目的とした。 平成29年度の研究によって、異なるアミノ酸組成を持つ13アミノ酸種で再構成されたアミノ酸組成単純化型ヌクレオシド二リン酸キナーゼが74℃まで安定であり、元の祖先型再構成ヌクレオシド二リン酸キナーゼの100分の1または1万分の1の比活性を持つこと、現存のヌクレオシド二リン酸キナーゼアミノ酸配列で良く保存されているアミノ酸をアミノ酸組成単純化型ヌクレオシド二リン酸キナーゼ配列中に戻すことによって、変性温度と触媒活性が大きく回復することを明らかにすることが出来た。この結果は、生命の初期進化においても、アミノ酸種類の拡大によって原始タンパク質の安定性や機能が向上し、その結果、宿主生物のフィットネスが向上し、生物の初期進化の駆動力になった可能性を示唆するものであると言える。さらに、このような研究結果について、いくつかの学会で口頭発表をおこない、また誌上発表もしたので、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
初期の翻訳系では必ずしも20種類すべてのアミノ酸を用いてタンパク質が合成されていたわけではなく、現在の翻訳系が成立する途上では、20種類未満のアミノ酸だけから活性を持ったタンパク質が合成されていたとする仮説について検討をおこなうため、研究代表者は、復元したヌクレオシド二リン酸キナーゼから系統的かつ網羅的にアミノ酸種類を減らしていくことによって、前年度までに13種類のアミノ酸だけから再構成された2種類のアミノ酸組成単純化型ヌクレオシド二リン酸キナーゼを得た。この結果を基にして、平成30年度は、これらの単純化型タンパク質からさらにアミノ酸種類数を系統的に減らしていき、タンパク質の触媒活性と立体構造の安定性がどのように変化するか明らかにする。さらに、安定な立体構造を形成しなくなるか、活性が検出できなくなるまで、系統的に欠損させるアミノ酸を1種ずつ増やしていくことで、タンパク質の合成に必要な最少のアミノ酸種類を明らかにする。加えて、アミノ酸を欠損させる順序を変えることで、異なる組み合わせのアミノ酸種が欠損した単純化型タンパク質を複数得る。それらのアミノ酸組成から、タンパク質の合成に必須のアミノ酸種類を明らかにする計画である。 さらに、IleRS、ValRS各々の共通祖先とIleRSとValRSの共通祖先の活性を測定する。以上の解析から、これらの祖先ARSのアミノ酸特異性を検討し、蛋白質合成系に、Ile、Valがどのように使用されるようになってきたか考察する。他のARSについても順次祖先配列を推定し、発現、精製、活性測定を進める。 得られた結果については、学会発表および誌上発表する。
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