2018 Fiscal Year Annual Research Report
初期翻訳系で使われたアミノ酸種類の時系列変化に関する研究
Project/Area Number |
17H03716
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
赤沼 哲史 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (10321720)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
横堀 伸一 東京薬科大学, 生命科学部, 講師 (40291702)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 生命の起源 / アミノ酸組成 / 初期進化 / 原始タンパク質 / 翻訳系 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究では、復元した祖先ヌクレオシド二リン酸キナーゼ(NDK)から系統的にアミノ酸種類を減らしていき、13アミノ酸種だけから構成された2つのアミノ酸組成単純化型NDK(Arc1-13, Arc1-13M)が安定な立体構造を形成し、検出可能な大きさの触媒活性を持つことを明らかにした。さらに、Arc1-13MからHis, Asn, Tyrをさらに欠損させて再構成したArc1-10は、熱変性温度は80℃以上と高い耐熱性を示すが、触媒活性を失うことも報告した。 平成30年度は、Arc1-10と比べてより少数のアミノ酸種で安定な構造を持つNDKの再構成を試みた。Arc1-10からAla、Phe、Ileのうちのいずれか1つのアミノ酸種を欠損させた改変体(Arc1-9A、Arc1-9F、Arc1-9I)の円二色性スペクトル解析では、Arc1-9A、Arc1-9F、Arc1-9Iのいずれも十分量の二次構造を持つことが示された。また、熱変性実験からは、3つの改変体とも二状態変性し、変性中点温度は60℃以上であった。以上の結果は、9アミノ酸種から安定なタンパク質立体構造を構築できることを示したと言える。 次に、Arc1-10からAla、Phe、Ileのうちのいずれか2つのアミノ酸種を欠損させたArc1-8AF、Arc1-8AI、Arc1-8FIを合成した。これらの改変体は高い溶解度を示したが、天然様の立体構造を形成していないことが示唆された。すなわち、少なくとも現時点では、8アミノ酸種類だけからでは、安定な立体構造を構築できていない。 また、イソロイシルtRNA合成酵素(IleRS)、バリルtRNA合成酵素(ValRS)、ロイシルtRNA合成酵素(LeuRS)の複合系統樹に基づきIleRSとValRSの共通祖先酵素を復元した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
翻訳系は、生命の情報分子である核酸と機能分子であるタンパク質をリンクさせる、生物に必須のシステムである。したがって、翻訳系の起源と進化は、生命の起源を理解するための最も重要な課題の一つと言える。現存する生物が共有して持つ現在の翻訳系がいかなる進化の過程も経ずに原始生命上で突然成立したとは考えづらい。初期生物は20種類未満のアミノ酸だけからタンパク質を合成し、進化の過程で徐々にタンパク質合成に用いるアミノ酸種類を増やし、最終的に現在の20種類に達した可能性が指摘されている。本研究では、核酸関連酵素であるヌクレオシド二リン酸キナーゼ(NDK)の祖先型復元体から網羅的かつ系統的にアミノ酸種類を減らすことによって、標準遺伝暗号表の成立過程と密接に関わったはずの翻訳系成立過程において、タンパク質合成に使われたアミノ酸種類がどのように変化してきたかを探ることを当初の目的とした。 平成30年度の研究によって、9種類のアミノ酸だけから、安定な立体構造を形成するタンパク質が合成できることを実証し、さらに、8種類のアミノ酸だけからは、現時点では安定な構造を形成するタンパク質の合成には至っていないものの、高い溶解度を示すタンパク質を得た。したがって、次年度以降に、8種類のアミノ酸だけからは再構成したアミノ酸配列の最適化を試みることで、8種類のアミノ酸だけから安定な構造を持つタンパク質の合成が可能か検証可能となった。 また、IleRSとValRSの共通祖先酵素を復元したので、次年度以降に、共通祖先酵素のアミノ酸特異性の解析が可能となり、IleとValがどのような経緯でタンパク質合成に使われるようになったかに関する知見が得られると期待できる。 以上の理由から、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
8アミノ酸種で再構成されたArc1-8AF、Arc1-8AI、Arc1-8FIは、凝集や沈殿することなく、高い溶解度を示したが、一方で、天然様構造は形成していないように思われた。そこで、Arc1-8AF、Arc1-8AI、Arc1-8FIの配列最適化を試み、8アミノ酸種類で安定な立体構造を持つタンパク質が再構成可能か検討する。 Arc1-13からHis, Asn, Tyrを欠損させた単純化改変体Arc1-10(FI)を構築する。その際に、触媒活性に必須と考えられているHisとAsnをそれぞれ1残基ずつだけは保持した改変体Arc1-10(FI)+HNも構築する。これらの改変体の安定性と触媒活性を解析する。高い安定性と検出できる大きさの触媒活性を保持した改変体が得られて場合、その改変体からさらに網羅的かつ系統的にアミノ酸種類を減らし、安定性と活性を保持したNDK改変体の構築に必要な最少アミノ酸種類(数)を検討する。 さらに、Ile共通祖先ARS、Val共通祖先ARS、および、IleRSとValRSの共通祖先ARSについて、Ile、Val、Leu等の各種アミノ酸に対する詳細な基質特異性の検討を行う。Leu共通祖先ARSと、LeuRS、IleRS、ValRSの共通祖先配列を推定し、これらの遺伝子を作成する。その遺伝子の大腸菌内で発現、および、精製、活性測定条件を検討し、そのアミノ酸特異性を検討する。加えて、Val, Ile, Leu, Metの系統よりも前に分岐したと推定されているCysRSとArgRSとの複合系統樹の構築を進めることで、より古い分岐点における祖先ARSのアミノ酸特異性の解析を目指す。 得られた結果については、学会発表および誌上発表する。
|