2018 Fiscal Year Annual Research Report
Symbiotic genetic network: its regulatory mechanism and the evolution
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17H03717
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
重信 秀治 基礎生物学研究所, 生物機能解析センター, 特任准教授 (30399555)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 共生 / アブラムシ / 次世代シーケンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
共生系において宿主と共生者がどのように統合的な遺伝子ネットワークを構築するかはほとんど分かっていない。本研究では、昆虫アブラムシと細菌ブフネラの共生系をモデルに、共生系の遺伝子ネットワークの制御機構と進化過程を解明することが目標である。そのために以下の4つのサブ課題を設定して研究を進めた。今年度の特筆すべき成果は2つ。第一に、BCRペプチドの抗菌活性に関する論文を発表したこと。第二に、アブラムシでCRISPR/Cas9によるゲノム編集に成功したことである。 (研究1) 転写因子Dllの遺伝子ネットワークの解明:前年度ATAC-seqのパイロット実験に成功していたが、今年度はプロトコルを改良した。成虫虫体のATAC-seqデータを解析した結果、多くの遺伝子の転写開始点付近に明瞭なピークが認められ、解析手法の妥当性が確認された一方、共生細菌のゲノムが相当数読まれてしまう問題点も明らかになった。 (研究2)新規シグナルペプチドBCRの機能の解明:代表者の技術開発によりゲノム編集が可能になり、この技術を利用してBCRのノックアウト変異体の作成を進めた。インジェクション世代での高効率のゲノム編集が確認された。 (研究3)宿主・共生細菌の遺伝子発現動態解析:有性世代の胚発生時期のRNA-seqを進めた。初期胚のサンプルの準備ができた。また、胚一つからの微量RNA-seqのライブラリ作成法の検討を行った。 (研究4) 比較ゲノム解析によるnon-coding領域の共生因子の同定と機能解析:前年度までにエンドウヒゲナガアブラムシApL系統ゲノム配列を決定していたが、今年度は染色体レベルのアセンブルを目指しHiCによるアセンブルを進めた。また、新たに発表された複数種のアブラムシゲノムを公的データベースから取得し比較ゲノム解析の対象に追加するとともに、いくつかの社会性アブラムシのゲノム解読を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究1の計画に含まれるChIP-seqは、モデル生物のプロトコルを参考に進めているが難航しており、さらなる条件検討が必要な状況にある。研究4の比較ゲノム解析は新たなアブラムシゲノムが海外より複数発表され、研究対象の見直しに迫られ、解析の準備に時間を要している。それ以外の研究についてはATAC-seqなどの実験系の確立が順調に進んでいる。HiCによるエンドウヒゲナガアブラムシの染色体レベルのゲノムアセンブリも想定以上に良好な結果が得られつつある。今年度の特筆すべき成果は、エンドウヒゲナガアブラムシでCRISPR/Cas9によるゲノム編集に成功したことである。G0世代(インジェクション世代)での高効率のゲノム編集が確認された。いくつかの遺伝子については生殖系列の変異によるstable mutantが得られている。このゲノム編集技術を使ってBCRのみならず多数のアブラムシの「共生遺伝子」の機能解析が格段に進展することが期待される。また、BCRの抗菌活性に関する論文を発表することもできた。このように、想定していたより難易度が高かったり、状況の変化のために遅延が見られる小課題もあるが、ゲノム編集をはじめとする基盤技術の多くがほぼ確立され、それらを使ったデータ取得も着実に前進している。成果論文も発表した。そのため総合的には「(2)おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
共生系遺伝子ネットワークの制御機構と進化過程を解明するために、アブラムシ/ブフネラ共生系をモデルに、これまで同様4つの小課題を推進する。特に、昨年度確立に成功したアブラムシのゲノム編集技術の活用を積極的に進めるとともに、ゲノム編集技術の高度化(ノックイン技術の開発など)にも取り組む。 (研究1)転写因子Dllの遺伝子ネットワークの解明:難航しているChIP-seqについては、ChIP-seqの経験が豊富な共同研究者にアドバイスを求めて、なるだけ早い時期にプロトコルを確立させる。ATAC-seqは昨年度までに得られたデータ解析を進めるとともに、バクテリオサイト(共生器官を構成する細胞。細胞内に強制細菌が棲息する)だけからATAC-seqが可能かどうか検討する。 (研究2)シグナル分子BCRとシグナル伝達脂質による共生遺伝子発現制御の解明:BCRの局在を免疫染色や免疫電顕により明らかにする。ゲノム編集による機能解析を進める。 (研究3) dual-RNA-seqによる宿主・共生細菌の遺伝子発現動態の同時計測と解析:有性世代の胚発生時期のRNA-seqを行い、宿主モルフの違いによって共生関連の遺伝子の発現がどのように変動するかを調べる。近年技術の進歩が著しいシングルセルRNA-seqも試す。 (研究4)比較ゲノム解析による共生に関わるnon-codingエレメントの同定と機能解析:昨年度いくつかのアブラムシのゲノム情報が新たに公開された。また、私たちも新規にアブラムシ数種のゲノム解読を進行中・計画中である。これらのゲノムデータを統合し比較する。
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