2017 Fiscal Year Annual Research Report
Dynamical theory of switching predation based on chemical substances arising learning behaviors in the parasitic wasp
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17H03731
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
嶋田 正和 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (40178950)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松山 茂 筑波大学, 生命環境系, 講師 (30239131)
笹川 幸治 千葉大学, 教育学部, 准教授 (30647962)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Anisopteromuls属寄生蜂 / 宿主マメゾウムシ類 / 匂い物質 / カイロモン / バイオアッセイ / 産卵学習 / 推移行列 / エソグラム |
Outline of Annual Research Achievements |
嶋田はゾウムシコガネコバチ(Anisopteromuls calndrae)とその隠蔽種A. quinariusの日毎生存率と日毎次世代生産力を測定し、何を餌にするかで推移行列の変化を解析した。その結果、宿主の豊富な環境と貧相な環境とで最適産卵・生存戦略が異なることが分かった。 松山と連携研究者・柴尾は、寄生蜂が宿主2種(アズキゾウとヨツモン)を識別し産卵学習を通じて宿主探索に利用しているカイロモンを特定する実験を進めた。前年度までに絞り込んだアズキゾウ特有の主要成分である11-methylheptacosane(11-MeC27)、およびヨツモンに特有の主要成分である9-methylheptacosane(9-MeC27)、3-methylnonacosane(3-MeC29)、9,13-dimethylnonacosane(9,13-diMeC29)を化学合成してバイオアッセイに供し、学習ハチに産卵行動を解発するかを確認した。その結果、これら4成分の合成品で蜂に産卵行動を解発し、学習・記憶効果を再現することに成功した。各成分を単独で提示した場合、ハチは複雑な構造を持つ分枝鎖炭化水素をよく覚えていたが、天然物に似せて4成分(単独では効果のない成分も含む)を0.1個体当量以上でブレンドした場合に、特に高い学習効果を引き出せた。よって、本種の産卵学習行動を解発するカイロモンは、宿主2種特有の11-MeC27、9-MeC27、3-MeC29、9,13-diMeC29の4物質であることが確認された。 笹川は雌蜂の産卵行動のエソグラムのために、学習経験のない雌による宿主入り豆上での産卵行動を観察し、行動要素に分類した。その結果、以下の4つに大別できた:(1)触角によるタッピング、(2)腹部先端による突き刺し行動、(3)産卵管による穴あけ行動、(4)それに続く実際の産卵行動である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
宿主マメゾウムシ2種の足跡物質として、アズキゾウムシ1成分、ヨツモンマメゾウムシ3成分を特定して化学合成し、その合成品を用いたバイオアッセイで、天然物質と同じ産卵行動を誘発できた。寄生蜂の産卵学習行動は、動物の採餌行動の中でもかなり複雑な学習行動であるが、それを規定する化学物質として同定し合成した研究は、過去に先行例がないほどの傑出した成果である。次年度以降にバイオアッセイで繰り返し数を増やして、国際的第一級のジャーナルに投稿する予定である。この時、Anisopteromuls属寄生蜂2種のエソグラム分析は、両種でどの部分が変わるために、A. calandraeはきちんと匂い学習ができて、片やA. quinariusは匂い学習が苦手であるのかの相違を明らかにしたい。 また嶋田は、研究している隠蔽種A. quinariusには餌条件に依存して推移行列を構成する生活史パラメータに可塑性が現れることを発見したが、環境条件に依存して可塑性を示す推移行列の解析は国際的にも極めて貴重な研究である。次年度以降、このデータをさらに詰めて、推移行列の解析と併せて進め、論文をまとめて投稿したい。
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Strategy for Future Research Activity |
宿主マメゾウムシ2種の足跡物質として、アズキゾウムシ1成分、ヨツモンマメゾウムシ3成分を特定して化学合成し、その合成品を用いたバイオアッセイで、天然物質と同じ産卵行動を誘発できた。次に取り組むのは、どの物質が欠けると(あるいは代替品で置き換えると)、どの程度、産卵学習の能力が低下するのかを調べたい。また、今まで宿主はセコブマメゾウムシ属(Callosobruchus)のマメゾウムシ類を研究材料にしてきたが、系統的に離れたイクビマメゾウムシ族Zabrotes属ブラジルマメゾウムシではどのように寄生能力や寄生行動のエソグラムが変わるのかを調べたい。 また嶋田が研究しているAnisopteromalus属の寄生蜂2種は、宿主の体液を吸汁できて常時変わらない生活史パラメータと推移行列を発揮するA. calandrae と、餌条件に依存して生活史パラメータに可塑性が現れ推移行列が変動するA. quinariusで大きな差異がある。餌に遭遇する確率が異なるさまざまな環境条件を利用する「ベイズ推定型寄生蜂モデル」を構築して、天敵の採餌学習能力と生活史パラメータを統一した推移行列解析を進めたい。
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Research Products
(4 results)