2018 Fiscal Year Annual Research Report
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17H03745
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平野 博之 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (00192716)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 発生分化 / 形態形成 / 葉 / メリステム / 発生遺伝学 / イネ(Oryza sativa) / エピジェネティック制御 / ヒストン脱アセチル化酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
イネの発生・分化の分子機構を理解することを目的とし,葉の発生や分げつ形成に関わる遺伝子の機能について解析を行った。 [1] dsl1変異体の表現型解析を行った。dsl1の葉は細く,大維管束や小維管束の数が減少していた。組織学的な解析から維管束間の幅が減少していることが示され,それは葉肉細胞の数の減少や表皮細胞の細胞列の減少に起因していることが明らかとなった。細胞周期のマーカー遺伝子の発現を調べたところ,葉原基において有意に細胞分裂が低下していた。また,dsl1が半矮性であるのは,茎の第2~第4節間の伸長阻害が原因であった。さらに,dsl1は生殖成長期にも異常が生じており,1次枝梗の数や長さの減少,内外頴の幅の減少,花粉形成の強い阻害などが認められた。このように,dsl1は栄養成長期から生殖成長期までのすべての発生ステージにおいて,多面的な異常を示した。dsl1の原因遺伝子を単離したところ,ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) をコードしていることが判明した。HDACはヒストンのアセチル化状態を制御することで,数多くの遺伝子の発現に影響を与えている。したがって,dsl1が多面的な異常を示すことは,数多くの遺伝子の変動の結果であると考えられる。 [2] cul1変異体を解析したところ,栄養成長の初期から中期にかけては野生型とほとんど変わらないものの,後期になると,細く向軸側にカールした葉を生じることが判明した。また,茎頂メリステムのサイズが小さく,出葉速度も低下していることが判明した。 葉の形態形成異常の原因を調べるために,組織学的解析を進めた。 [3] 分げつがほとんど形成されないted1変異体は,腋芽形成はほぼ正常であることから,腋芽の伸長が抑制されている可能性が示唆された。その原因を細胞レベルで調べることを目的として組織学的解析などを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
[1] dsl1の表現型を,形態レベル,組織レベル,分子レベルで解析し,その発生異常を詳細に明らかにした。また,ポジショナルクローニング法と全塩基配列の決定により,DSL1遺伝子はRPD3/HDA1ファミリーに属するHDAC遺伝子の一つ(HDA711)をコードしていることを明らかにした。さらに, CRISPR-CAS9法による遺伝子破壊により,HDA711がDSL1遺伝子であることを確証した。これまで,イネにおけるHDAC遺伝子に関する研究は乏しく,変異体を用いた研究は全く報告されていない。本研究では,変異体を解析することにより,HDAC遺伝子がイネの葉や花序の発生に重要なはたらきをしていることを明らかにすることができた。以上のように,本研究は順調に進んでいる。これらの研究をまとめ,論文を執筆している。 [2] cul1変異体については,葉の表現型が栄養成長期の後期という,極めて特定の時期にほぼ正確に現れるという現象を見出した。この表現型が現れる時期は,幼若期から成熟期への転換や栄養成長から生殖成長の転換とは異なる時期であり,植物の成長にこれまでは知られていなかった特殊な成長時期に葉の性質が転換することを示唆している。したがって,本研究の遂行から,ユニークな葉の発生機構を解明できる可能性がある。現在,組織レベルでの形態学的解析や表現型出現の転換とメリステムとの関連などの解析を進めている。 [3] det1変異体についても組織・細胞レベルでの解析を進めるとともに,マッピングによる遺伝子単離を試みている。マッピングした領域内には,既知の腋芽伸長に関わる遺伝子が存在しないことから,det1変異体を用いて,分げつ形成の発生機構に新たな知見を加えられることが期待される。 以上のように,本研究全般は,計画通り順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
[1] 葉の発生に関しては,DSL1遺伝子の機能解析結果を論文としてまとめ,投稿する。cul1変異体に関しては,組織学的な解析を進めるとともに,栄養成長後期特異的に葉の表現型が現れる原因を探る。cul1変異の原因遺伝子がほぼ判明しているため,相補性検定をおこない,同定した原因遺伝子の確認を行う。また,in situ ハイブリダイゼーションにより,同定された遺伝子の時間的・空間的発現パターンの解析を行う。cul1変異体でどのような遺伝子の発現変動が起きているのか,トランクリプトーム解析を行う。本年度もマイクロアレイ解析を行いデータは得られており,その解析も進んでいる。しかし, 遺伝子同定からCUL1遺伝子がElongator complex のサブユニットをコードしていることが判明し,転写伸長に関わる可能性が示唆されため,来年度は,RNAseq解析を行ない,遺伝子の発現変動に加えて,cul1変異体で転写産物の伸長に異常があるかどうかについて検討する。 [2] 分げつ形成に関しては,腋芽メリステム形成と腋芽伸長の2つの側面から解析を進める。腋芽メリステムの形成については,分げつの形成されない変異体tab1やメリステムの維持制御が損なわれたfon2変異体などを活用して,その遺伝的相互作用や腋芽メリステム形成時の幹細胞の維持制御機構について,解析を進める。腋芽伸長の抑制については,ted1を材料とし,この変異体における腋芽伸長抑制の原因を細胞・組織レベルで詳細に解析する。TED1遺伝子単離の作業を進め原因遺伝子候補を一つに絞り込む。つぎに,その遺伝子をCRISPR-CAS9により破壊し,ted1変異が現れるのかどうかを検討することにより,遺伝子単離の結果を検証する。同定されたTED1遺伝子の空間的・時間的発現パターンを解析する。これらの結果を総合して,TED1が腋芽形成をどのように制御しているのか,その発生学的役割を推定する。
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Remarks |
進化遺伝学研究室ホームページ http://www.bs.s.u-tokyo.ac.jp/ɷhirano/English.html
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Research Products
(11 results)
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[Presentation] イネの花序構築を制御するBELL1型ホメオボックス遺伝子RIとRIL1の機能解析2019
Author(s)
池田 拓之, 田中 若奈, 鳥羽 大陽, 鈴木 千絵,前野 哲輝, 津田 勝利, 城石 俊彦, 倉田 哲也, 坂本 智昭, 村井 正之, 松坂 弘明, 熊丸 敏博, 平野 博之
Organizer
日本育種学会
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