2018 Fiscal Year Annual Research Report
タマネギ鱗茎におけるフルクトオリゴ糖の代謝メカニズムの解明
Project/Area Number |
17H03760
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
志村 華子 北海道大学, 農学研究院, 講師 (20507230)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上野 敬司 酪農学園大学, 農食環境学群, 准教授 (90441964)
前田 智雄 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (90530478)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | タマネギ / フルクトオリゴ糖 / 糖代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
収穫時のフルクタン含量が異なるタマネギ2品種を用いて、定植から収穫までの鱗茎フルクタンの含量および代謝酵素活性の変動を調べた。その結果、フルクタンの量や組成の違いは生育期間のほとんどでみられず、収穫2週間前の鱗茎肥大開始以降にはじめて現れることが分かった。また、品種間でフルクタン合成酵素活性に大きな違いはみられず、分解活性には差異がみられた。葉身のフルクタン動態も解析したところ、量や組成について2品種で大きな違いはなかったが、鱗茎肥大期間のスクロース量が異なっていた。これらのことから、フルクタン蓄積の品種間差には、フルクタン合成酵素の活性量よりも基質となるスクロース量が大きな影響をもち、スクロースを供給するフルクタン分解酵素やインベルターゼ活性の違いが大きく関わるのではないかと考えられた。 これまでに見出していた1-FEH活性を示す遺伝子(Onion9132)についてさらに詳細な機能解析を行ったところ、Onion9132は1-ケストースだけでなく、ネオケストースや1&6G-kestotetraoseも分解する活性を示した。分解様式をみると、フルクトース-フルクトース間の結合だけでなく、フルクトース-グルコース間の結合も分解していたことから、Onion9132は唯一アスパラガスでのみ報告があった6G&1-FEH活性を持つことが示された。また、既知のフルクタン代謝酵素とOnion9132の系統解析の結果、Onion9132は液胞型インベルターゼから進化したことが示唆される初めてのFEHであることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フルクタンの合成と分解に関わる酵素はどちらもインベルターゼファミリーであり、アミノ酸相同性から、フルクトース転移酵素は液胞型インベルターゼ、フルクタン加水分解酵素は細胞壁型インベルターゼから進化したと考えられている。しかし、フルクタンの代謝の場は液胞のみともいわれており、フルクタンやその代謝酵素の局在についてはいまだ未解明な点が多い。本研究で見出されたフルクタン分解活性を示すOnion9132は、これまで植物で見つかっているすべてのフルクタン加水分解酵素とは異なり、液胞型インベルターゼやフルクタン転移酵素と同じクレードに分かれた。したがって、Onion9132は液胞型インベルターゼから進化したことが示唆される初めてのフルクタン加水分解酵素であり、学術的に非常に興味深い新しい知見を得ることができた。また、タマネギの生育期間別のフルクタン動態の解析では、収穫鱗茎でみられたフルクタン含量の品種間差には、鱗茎肥大開始前後のフルクタン分解、特にフルクタン合成の律速となる基質であるスクロース含量が大きな影響を及ぼすという知見を得ることができ、今後はスクロース代謝の解析も必要であるとの研究方向を見出すことができた。このような平成30年度に得られた研究結果をふまえ、研究はおおむね順調に進展していると考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
タマネギではじめて見出された液胞型のフルクタン加水分解酵素がどのように進化してきたかは非常に興味深い。今後は、この新規フルクタン加水分解酵素に、同じ液胞型であるフルクタン転移酵素や液胞型インベルターゼのような活性があるのか、また、実際の細胞内局在はいずれの部位なのかについて、さらに詳細な解析を進める。具体的にはこの新規フルクタン加水分解酵素も含め、他のタマネギのフルクタン代謝酵素に可視化タグをつけて一過的あるいは恒常的発現を行い、共焦点レーザー顕微鏡観察などを用いて観察を行う。また、様々な組換え酵素の作出およびその機能解析を行うことで、酵素活性に必要なアミノ酸を明らかにすることも検討する。また、タマネギのネイティブ酵素を用いた解析もあわせて行い、フルクタン代謝に関わる酵素群の基質特異性などの酵素性質について詳細に解析する。 また、タマネギのフルクタン代謝遺伝子の発現抑制を検討する実験では、これまでアグロバクテリウム感染を利用した組換え体の作出を検討してきた。しかし、カルス形成後の個体再生系が難しく効率が低いことが考えられたため、今後はカルス形成を経ず、茎頂組織から直接組換えシュートを伸長させるような方法についても検討を行う。また、鱗茎におけるフルクタン蓄積は、フルクタン合成の律速となるスクロース量が大きな影響を持つことが予想されたことから、これまでタマネギでは分かっていなかったスクローストランスポーターの同定を行い、鱗茎形成過程における遺伝子発現解析を行うなどして、スクロース代謝がフルクタン代謝にどのように関わるのかを明らかにすることを検討する。
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Research Products
(5 results)