2019 Fiscal Year Annual Research Report
イネ根におけるアンモニウム態窒素過剰吸収抑制機構の分子統御基盤の解明
Project/Area Number |
17H03780
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
早川 俊彦 東北大学, 農学研究科, 准教授 (60261492)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 植物代謝調節 / 植物栄養学 / 遺伝子 / 酵素 / シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
窒素栄養は、植物の生育や生産性を支配する多量必須栄養である。水田栽培の主要穀物イネは、主にアンモニウム態窒素栄養を吸収・利用する。しかし、高濃度アンモニウム供給は、多くの陸上植物に有害である。植物は、根細胞内アンモニウム過負荷回避のため、アンモニウム供給濃度上昇に応答して根の高親和性アンモニウム吸収系(HATS)を転写・タンパク質レベルで負に制御するが、この詳細な分子機構は不明である。 昨年度までの研究から、充足濃度のアンモニウムを与えたイネ幼植物の根では、セリン・スレオニン・チロシン タンパク質リン酸化酵素ACTPK1が高蓄積し、ACTPK1がHATSを構成するアンモニウム輸送体1;2 (AMT1;2)のC末端側の保存スレオニン残基をリン酸化して、AMT1;2を不活性化することを明らかにした。また、試験管内実験で、このリン酸化活性に影響を与える低分子代謝産物候補を見いだした。イネ培養細胞プロトプラストでの一過的なアンモニウム応答遺伝子発現解析系を構築し、ACTPK1遺伝子5'上流域-レポーター遺伝子のアンモニウム濃度応答性も確認した。さらに、ACTPK1と AMT1;2の相互作用のアンモニウム濃度依存性と相互作用部位の解析のため、ACTPK1の推定低分子結合・機能制御ACTドメインを含むN末端側の推定調節領域とC末端側のタンパク質リン酸化酵素ドメイン領域に関して、野生型及びこれらの領域を部分欠損させた変異型のACTPK1のBiFCコンストラクトを作成した。 本研究内容を、第4回植物窒素栄養国際会議(The 4th International Symposium on the Nitrogen Nutrition of Plants: 2019年9月21日-25日、中国、南京)でポスター発表し、優秀ポスター賞に選ばれるなど、国内外の研究者から高い評価を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度までに、充足濃度アンモニウム供給イネ幼植物根では、ACTPK1が高蓄積し、ACTPK1がHATS構成アンモニウム輸送体1;2 (AMT1;2)のC末端側の453番目のスレオニン残基をリン酸化して、AMT1;2を不活性化することや、このリン酸化活性に影響を与える低分子代謝産物候補を見いだした。また、イネ培養細胞プロトプラストでの一過的なアンモニウム応答遺伝子発現解析系を構築し、ACTPK1遺伝子5'上流域-レポーター遺伝子のアンモニウム濃度応答性を確認できた。しかし、ACTPK1と AMT1;2の相互作用のアンモニウム濃度依存性と相互作用部位の植物細胞内BiFC解析において、野生型イネ培養細胞プロトプラストを用いた場合、内在性ACTPK1の発現量が極めて高く、導入遺伝子の発現産物の相互作用を阻害する結果となってしまったため、解析が遅れている。 以上、イネの根における高親和性アンモニウム輸送体の翻訳後制御の分子機構の一端を解明できた。
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Strategy for Future Research Activity |
1) ACTPK1と AMT1;2の相互作用のアンモニウム濃度依存性と相互作用部位の解析 ACTPK1は、N末端側の推定調節領域とC末端側のタンパク質リン酸化酵素ドメイン領域から構成される。野生型及びこれらの領域を部分欠損させた変異型のACTPK1のBiFCコンストラクトとAMT1;2 BiFCコンストラクトを、植物細胞内で一過的に共発現させ、原形質膜上での相互作用を共焦点レーザー顕微鏡解析する。低濃度から充足濃度のアンモニウム供給下の野生型イネ培養細胞プロトプラストでは、内在性ACTPK1の発現量が極めて高く、導入遺伝子の発現産物の相互作用を阻害する結果を得た。そこで、既得のACTPK1欠損イネよりカルスを誘導し、このプロトプラストで導入発現させる。また、イネ葉肉細胞プロトプラストやタマネギ表皮細胞でも検証する。 2) ACTPK1による直接的リン酸化を介したAMT1;2のアンモニウム吸収活性阻害におけるリン酸化制御エフェクターの解析 上記エフェクター候補を試験管内リン酸化実験で選抜した。イネ植物の根に、充足濃度アンモニウムとリン酸化制御エフェクター分子候補を直接供与し、AMT1;2のリン酸化状態やアンモニウム吸収を解析して、同エフェクター分子を同定する。 3)イネ根におけるACTPK1遺伝子の充足濃度アンモニウム供給応答発現機構の解明 今年度に続き、ACTPK1遺伝子5'上流域部分欠失DNA断片融合レポーター遺伝子の低濃度から充足濃度のアンモニウム供給下のイネ培養細胞プロトプラストでの一過的発現解析系で、充足濃度アンモニウム供給応答制御シス配列候補を探索する。同系での候補シス配列の機能欠損・最小プロモーター機能付加解析でシス配列の同定を目指す。
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