2018 Fiscal Year Annual Research Report
外膜を有するグラム陽性偏性嫌気性細菌の細胞表層構造と生理に関わる遺伝子群の解析
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17H03786
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
金子 淳 東北大学, 農学研究科, 准教授 (30221188)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Negativicutes / anaerobic / vinyl-ether bond / outer membrane / porin / RNA-seq |
Outline of Annual Research Achievements |
【1. プラズマローゲンの生合成機構の解析】枯草菌にSelenomonas ruminantium のPlsX-PlsY遺伝子を導入した株(Bs PlsXY)の解析に集中し、ビニルエーテル結合形成への影響を解析した。Bs PlsXY株の枯草菌本来のPlsX遺伝子のノックダウン株を構築、S. ruminantium のPlsXが枯草菌のPlsXを代替していることを確認した。S. ruminantium のPlaX、PlsYのペプチド抗体を作製してBs PlsXY株でのPlsXの発現を確認したが、PlsYは抗体が反応せず、発現が確認できなかった。この時点で膜脂質の分画を精密に進めた結果、従来リン脂質画分に回収されていたヒドラゾンを与える物質が、中性脂質画分に存在することが明らかとなった。一方、pET系ベクターに組み込んだPlsXの大腸菌での高発現に成功した。可溶性画分からの組換えPlsXの精製を試みたが、 (His)6タグをN-末端、C-末端のいずれに付加した場合もカラムへの吸着が悪く、回収率が低かった。 【3. 遺伝子の網羅的解析の基盤の確立による嫌気条件化での生理の解析】 S. ruminantiumの小型のプラスミドpSRC9とクロラムフェニコール耐性遺伝子を大腸菌クローニングベクターに組み込んだシャトルプラスミドを構築した。一方、S. ruminantium の3つのtype 1制限修飾系の修飾(M)と基質認識(S)成分の遺伝子クラスターおよび1つのtype 2の修飾遺伝子をそれぞれ発現する大腸菌ホストを構築し、シャトルプラスミドをこれらのホスト大腸菌に導入してプラスミドを修飾することでS. ruminantiumへの導入を試みた。その結果S. ruminantiumはごく短時間の空気中でのコンピテント化処理に耐えることを確認したが、形質転換体は得られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
【1.プラズマローゲン(Pls)の生合成機構の解析】膜脂質画分の分画はこれまで、比較的大型のシリカゲルカラムで行なっていたが、回収率が悪いため小型のカラムに切り替えた。中性脂質画分の除去を完全に行なったところ、リン脂質画分にヒドラゾン誘導体を与える物質が失われた。この原因を探る必要が発生したため、約半年の遅延が生じた。中性脂質画分に抽出される物質から得られたヒドラゾン誘導体の質量分析の結果、これまでリン脂質画分で得られていたものと同様の分子量を持つことが確認され、枯草菌形質転換株中で脂肪アルデヒドが何らかの物質にビニルエーテル結合した物質が存在すると考えられた。このヒドラゾン誘導体を与える物質について、合成過程の中間体であるホズファチジン酸型の、頭部が修飾されていないプラズマローゲン前駆体の可能性を考えた。しかし、中性脂質画分の二次元TLC分析において、ヒドラゾン誘導体を与える物質の一次元目ヒドラゾン誘導体を与える物質が展開された位置にディットマー試薬によるリンのスポットは検出できなかった。 【2. 新規外膜保持機構に関わる遺伝子群の解析】条件を変えて試行を重ねたがポリアミン転移活性の検出系がワークせず、中断した。 【3. 遺伝子の網羅的解析の基盤の確立による嫌気条件化での生理の解析】前年度構築したシャトルプラスミドが、グラム陽性菌である枯草菌中に保持されることを確認した。当初type I制限系について、それらの修飾(M)と基質認識(S)成分の遺伝子クラスターを発現する大腸菌ホストに導入して回収したシャトルプラスミドを用い、S. ruminantium の形質転換を試みたが、形質転換体は得られなかった。ゲノムを精査したところ、新たにtype 2 の制限系と推定される遺伝子を見出したため、その修飾酵素を発現する大腸菌ホストを構築した。
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Strategy for Future Research Activity |
【1.プラズマローゲンの生合成機構の解析】(a)枯草菌の系でPlsX、PlsYによってビニルエーテル結合を形成することを証明するデータを取得する。特に導入したPlsYが機能していることを確認する。枯草菌の系では、プラズマローゲン生合成がビニルエーテル結合を持つ何らかの中間体でとどまる可能性を見出した。本中間体は不安定であることから、それを安定化するような枯草菌側及びS. ruminantiumの因子を探索する。RNA-seq解析を開始し培養条件によるプラズマローゲン含量の変動に関わる遺伝子群を解析し、候補とする。プラズマローゲン合成が安定化できれば、PlsX活性中心近傍のアミノ酸変異とプラズマローゲン産生能力の関係を再評価する。(b)Hisタグにつながるリンカー長やGSTタグも検討し、大腸菌でタグ融合PlsXの精製時の収量を増やし、結晶化に必要な高純度のPlsXを得る。(c)改良されたプラズマローゲンの高生産枯草菌株が得られれば、その成果を食経験のある納豆菌でのプラズマローゲン生産に応用する。 【2. 新規外膜保持機構に関わる遺伝子群の解析】(a)実験3で遺伝子破壊系が確立できれば、新規外膜保持に関わると推定される遺伝子を破壊し、阻害剤でのカダベリン合成阻害時と同様の性質を持つこと検証する。(b)RNA-seqにより外膜側因子であるMep45とそのホモログの環境条件による変動を解析する。 【3. 遺伝子の網羅的解析の基盤の確立による嫌気条件化での生理の解析】(a)引き続き修飾酵素を発現する大腸菌でプラスミドを修飾し、Selenomonasへの形質転換系を検証する。(b)乳酸資化及びグルコース資化時の菌体からtotal RNAを調製し、RNA-seqにより嫌気的乳酸資化時、及びグルコースから乳酸発酵を行なう際の転写の基礎データを得る。
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