2018 Fiscal Year Annual Research Report
糸状菌二次代謝系の誘導因子コンビネーションの解明と誘導予測の研究
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17H03799
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Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
町田 雅之 金沢工業大学, 工学研究科, 教授 (30358006)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐野 元昭 金沢工業大学, バイオ・化学部, 教授 (80410299)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 二次代謝 / 転写制御 / ルシフェラーゼ / 麹菌 / シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
EGFPを用いた蛍光による簡便なレポーターの構築を試みたが、レポーター非導入株との判別は可能であるものの、菌体からの自家蛍光が強く、プロモーター強度の違いによる判別は困難であった。核の局在シグナルの付加によって、顕微鏡下での視認性は改善されたが、蛍光強度計による定量測定に十分なS/N比の確保は困難であった。一方、市販されている分泌型ルシフェラーゼは、麹菌では分泌することができなかった。そこで、分泌シグナル部分を人為的に変更することにより、麹菌で分泌可能なコンストラクトを得ることに成功した。amyB遺伝子のプロモーターとGUS遺伝子を用いた比較実験により、amyBのマルトース誘導性に関して、従来のGUS遺伝子によるものと同様の結果が得られ、再現性に関してはGUSよりも優れていることが示された。 代表的な二次代謝系遺伝子であるmelB遺伝子のプロモーターを用いた実験により、既知の植物由来の固形物による誘導が確認され、さらに低温での誘導が新たに見いだされた。また、小麦ふすまなどを用いた固体培養においても、水溶液を用いた簡便な抽出操作によって測定できることを確認した。これらの発現解析は、マイクロプレート上で培地上澄に発光試薬を添加してCCDイメージャで測定する極めて簡便な操作で行うことができる。そこで、いくつかの二次代謝系遺伝子およびその制御因子のレポーター株を作製して、高い再現性で測定できることを確認した。 ルシフェラーゼの安定性に関して、低いpHでの低下が見られたことから、温度とpHに対する安定性を詳細に検討した。その結果、pHを6程度以上に保つことにより、通常の培養条件で活性が保持されることが確認された。また、培地中にリン酸緩衝液を添加することで、正確な測定が可能であることを確認した。培地のpH依存性の検討で低いpHを使用する場合には、あらかじめ失活速度を測定しておく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分泌型ルシフェラーゼによるレポーター系の構築に成功し、簡便・迅速な測定が可能になったばかりで無く、結果の再現性も高く、正確な測定ができるようになった。レポーターの構築と検証に予定よりも多くの時間を要したが、既に10種以上の二次代謝系遺伝子のレポーター株の構築を完了しており、培地中の固形物による誘導を初めとして、基本的な制御特性の解析は完了している。また、二次代謝のグローバルな転写制御因子遺伝子であるlaeAでは、培地中固形物と培養時間等による複雑な応答が観察されている。今後に予定している様々な培養条件とその組み合わせによる解析から、二次代謝系へのpositiveとnegativeの制御の両面性を有するlaeAとその制御下にある二次代謝系遺伝子の応答関して、興味深い結果が得られるものと期待される。 二次代謝系の制御条件の解析に重要となる基本培地の検討を行った結果、これまであまり意識されてこなかった、ポリペプトンやカザミノ酸による誘導が明らかとなった。また、弱いながらもsucroseによる炭素異化代謝産物抑制が観察された。これらにより、構築したレポーター系の信頼性、効率性などが実証され、得られた結果に基づいて設定した二次代謝系の制御に中立な培地を基本として、多様な培養条件とその組合せによる解析を行う予定である。 分泌型ルシフェラーゼを用いたレポーター系のその他の利点として、固体培養での発現解析が非常に簡単に行えることも示された。固体培養での菌体量の測定は容易ではなく、定量的な解析は難しいが、発現誘導が顕著な遺伝子に関する定性的な解析には、現時点でも極めて有効である。また、簡便な菌体量の定量方法についても、従来の細胞壁成分を用いた検討と並行して、本研究課題で構築して恒常的に発現する遺伝子を用いた方法についても検討を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
麹菌の簡便・迅速なレポーター系の安定的な利用が可能になったことから、これまでに行った固体培養などによる誘導を踏まえて、二次代謝の転写制御に関して中立な基本培地を用いることにより、多様なストレス条件を含む様々な培養条件とその組合せによる各レポーター株の応答を解析する。また、一般的に二次代謝の発現が麹菌よりも旺盛なA. flavusに関しても準備が完了したことから、麹菌と同様にレポーターを導入し、転写制御に関する麹菌との比較解析を行う。さらに、麹菌のシグナル伝達系破壊株に対してレポーターを導入して解析することにより、麹菌が有する各シグナル伝達系の二次代謝系遺伝子に対する関係を解析する。 上記によって、麹菌の二次代謝系遺伝子に関する大量の転写情報が蓄積されることから、この情報を用いた情報解析により、複雑な発現様式を有する二次代謝系遺伝子の転写制御メカニズムの解析を行う。主な解析としては、(1)発現様式のパターン化とクラスタリング、(2)前記(1)で得られた各発現パターンとシグナル伝達などの基本的な細胞制御機構との関係性の解析、(3)前記(2)を用いた二次代謝系遺伝子の効率的な誘導条件の推定である。前記(3)は前記(2)の結果に依存するものであるが、例えば、固体培養条件+αなど、二次代謝系の誘導に基本となる条件と、それに付加的に必要となる条件の組合せが考えられる。二次代謝系遺伝子は、ストレス環境下で誘導されるものが多いことから、レポーターを用いた実験の段階から、ストレス環境+その他の培養条件の組合せを行う予定である。既に、基本的な培養条件での発現に関する情報が得られていることから、試行的な情報解析を行いながら、その結果を踏まえた培養条件の設定により、効果の高い発現情報の獲得を行うとともに、予測された発現条件の検証を行いながら進める。
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