2017 Fiscal Year Annual Research Report
Studies on the bioreactor mimicking the estuaries for the on-land fish culture
Project/Area Number |
17H03851
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
豊原 治彦 京都大学, 農学研究科, 准教授 (90183079)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西村 文武 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60283636)
渡邉 哲弘 京都大学, 地球環境学堂, 助教 (60456902)
石井 健一郎 京都大学, 地球環境学堂, 研究員 (60749662)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 陸上養殖 / 干潟 / バイオリアクター |
Outline of Annual Research Achievements |
酸化マンガンや酸化鉄、酸化アルミニウムなどの金属酸化物が優れた酵素吸着能を有し、それらを用いることで微生物の増殖による溶存酸素濃度の低下を伴わない高機能な濾過材を作製できる可能性が示唆されている。しかしながら実際に金属酸化物を用いることで、水中の溶存酸素濃度の低下を防げるのかということはまだわかっていない。そこで本研究では実際のエビ養殖場において使用されているエビ餌を用いて、過剰投与によって水中の溶存酸素がどの程度減少するのかを測定するとともに、まず金属酸化物単体で底泥の溶存酸素濃度低下の抑制に効果があるのかを検証した。今回実験を行った系では、24 時間後までに水底から1 cmの高さまでの溶存酸素が減少し、それより上層の部分では溶存酸素の減少は見られなかった。また、コロニー数も20 cmの高さに比べ、1 cmの高さでの増加が著しかった。これらのことから、養殖現場において過剰給餌により水底に有機物が堆積している場合には、水底で細菌の増殖が著しく、今回の実験系と同様、水底から溶存酸素が下がり始めると考えられる。そのため、エビなどの底生生物が貧酸素化の影響を受けやすいと推察された。酵素を吸着させた金属酸化物を用いて溶存酸素濃度の測定を試みたが、その際に対照として金属酸化物のみの実験区を設定した。当初金属酸化物単体を投入するだけでは、溶存酸素濃度の低下抑制効果は期待できないと考えており、ほとんどの金属酸化物は予想通り、溶存酸素濃度に対して特に大きな影響は及ぼさなかった。ところが、酸化マンガン単体を投入した際には、有意に溶存酸素濃度の低下が抑えられるということがわかった。これらの結果は、酸化マンガンが単体で溶存酸素を供給する可能性を示唆していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
陸上養殖において頻繁におこる問題の一つに過剰給餌が挙げられる。過剰給餌により水底に有機物が堆積することは、細菌の増殖やそれに伴う溶存酸素の低下を引き起こし、飼育生物にストレスを与え疾病させることに繋がる。水中の溶存酸素(Dissolved Oxygen : DO)濃度は一般的に6.0 mg/L以上であれば水生生物にとって望ましい状態であるとされているが、4.29 mg/L以下になると貧酸素状態となり、比較的貧酸素に強い貝類以外の水生生物になんらかの影響を及ぼすことが明らかとなっている。 本研究では、天然干潟においてN、Pは、珪藻やバクテリア(生物過程)と土壌(非生物過程)で除去されているという仮説を立て、その実証を行うとともに、これらの知見を基に、天然干潟の有機物完全分解能を模倣した干潟リアクターを設計し、陸上養殖の今後の普及を妨げる大きな問題となっているN、P除去能を有する完全閉鎖型陸上養殖システムの開発を目指している。当該年度においては、全国各地から集めた干潟土壌を用いて、土壌学、海洋生物学、水環境工学の観点から研究を進めてきたが、その過程において、上述のように干潟に見られる金属酸化物のうち酸化マンガンが単独で酸素供給能を有することを見出した。この知見は、陸上養殖だけでなく、沿岸海洋環境、汚水処理過程などにも展開できる重要な知見と考えられることから、(1)と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
陸上養殖で用いられる餌は不飽和脂肪酸を多く含み、不飽和脂肪酸は容易に活性酸素と反応することにより脂質過酸化物を生成すると知られている。このような反応を経て有機物から過酸化物が生じることから、養殖用の飼料中には過酸化物が多く含まれている可能性が高い。またここで発生した過酸化物 ROOH はヒドロ過酸化物と称され、過酸化水素は代表的なヒドロ過酸化物の一つである。10) したがって、試料中の魚の脂質に由来する過酸化物が、強い過酸化水素分解活性を有する酸化マンガンによって分解されて酸素を発生し、水中の溶存酸素濃度の低下を抑制しているのではないかと推察される。一方、マンガン自体は生体にとって必須元素であり、成人体内には200 mg程度保持され、水道水基準では、0.05 mg/Lまで許容されている。そのため濾過材の材質として利用可能であると考えられる。しかし酸化マンガンは黒色のコロイドを形成し、水道にあっては黒水(黒く濁って見えること)の原因とされているため、11) 実際に濾過材として使用する際には工夫が必要である。 したがって、今後の研究の推進方策として、当初の計画に加え、餌中に含まれる過酸化物量の測定、過酸化物に対する酸化マンガンの触媒作用の確認、底泥細菌叢の同定、実際に魚を飼育することでの生物毒性の有無の確認、黒水への対策などを行う必要がある。さらに、今回明らかとなった酸化マンガンの溶存酸素濃度低下抑制効果に加えて、これまでの研究を生かした優れた酵素吸着能も活用していくことで、より優れた濾過材の開発を目指す所存である。
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