2017 Fiscal Year Annual Research Report
細胞内寄生菌の宿主内増殖と共生の双方向転換機構の解明
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17H03914
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
度会 雅久 山口大学, (連合)獣医学研究科, 教授 (40312441)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 細胞内寄生菌 / 宿主 / 共生 / 増殖 |
Outline of Annual Research Achievements |
病原細菌の多くは自然宿主内では病原性を発揮せず共生関係にあると考えられる。本研究はそのメカニズムを解析し、感受性宿主内における細胞内寄生菌の増殖と共生(休眠)の機構解明に応用することを目的としている。病原体の環境中での動態、特に自然宿主とその共生メカニズムは不明な点が多い。本研究では、細胞内寄生菌の代表として野兎病菌を用い、自然宿主モデルとしてのカイコ内の動態を解析した。 野兎病菌(Francisella tularensis)はヒトにおいて散発的に感染部の皮膚潰瘍や所属リンパ節の腫脹などの症状を引き起こし、人獣共通感染症の原因となることが知られている。自然宿主である野生動物や媒介節足動物などが菌を保有しており、重要な感染経路となっている。野兎病をコントロールするためには、環境中の病原体の動態を詳細に把握することが必須であると考えられる。しかしながら、節足動物体内における野兎病菌の動態はほとんど解明されていない。そこで本研究では、新たな節足動物モデルとしてカイコを用いて、体内における野兎病菌の動態の解析を行った。 カイコの体内に直接大腸菌および野兎病菌を注入し体内菌数を経時的に測定した結果、大腸菌は速やかに体内から排除されるのに対し、野兎病菌では体内菌数が1週間以上維持されることが確認された。また蛍光色素を導入した野兎病菌を用いた実験により、血球細胞内に侵入していることが確認された。さらにカイコにおける生体防御反応として知られている体液のメラニン化および体組織へのノジュールの付着に着目し実験を行ったところ、野兎病菌の感染に対してはこれら反応が抑制されていることが明らかとなった。野兎病菌は節足動物の体内において長期間生存するための特異的な機構を有しており、環境中における広い範囲の節足動物を宿主として、体内で生存・増殖できる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新たな節足動物モデルとしてカイコ(Bombyx mori)の有用性に着目し、野兎病菌の自然宿主モデルの構築を行った。カイコは孵化後、幼虫が5回脱皮し、繭の中でサナギになる。蛾は繭から出て交尾し産卵する。このサイクルは約50日である。4回脱皮後の幼虫(4令虫)に野兎病菌を接種すると、共生関係になることが認められた。このモデル系を用いて、カイコへの共生に必要な菌側因子を検索している。トランスポゾンを用いたランダム挿入変異法により、共生しない変異株の作出を行っており、複数の変異株を分離できている。今後これらの菌株の性状解析を行うことにより、宿主への共生に関与する因子(共生因子)の同定ができるものと期待される。概ね計画どおり進捗していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
概ね計画どおり進捗しているため、計画どおり研究を進める。カイコへの共生に必要な菌側因子を検索するために、トランスポゾンを用いたランダム挿入変異法により、共生しない変異株の作出を引き続き行う。これまでにカイコの中で維持されず、短期間に消失する変異株が複数得られている。これらの変異株はマクロファージ内では親株と同様に増殖する。このように共生因子は既知の増殖ステージに関与する病原因子とは別の機能因子群の可能性も考えられる。 変異株のカイコ内動態および局在の解析を行う。カイコは動物が持つ臓器に相当する器官を持つ。脂肪体(肝臓)、マルピーギ管(腎臓)、ヘモリンパおよびそれに含まれる細胞、免疫応答の結果形成されるノジュールに菌が含まれることが分かっている。野生株と変異株のカイコ内の動態および局在がどのように変化するか、菌数を測定することにより定量する。GFPを発現させた菌を用いることによって、共焦点レーザー顕微鏡による局在解析を行う。 カイコ臓器内における遺伝子発現解析を行う。菌が局在する臓器を摘出し、そこから回収された菌からRNAを分離し、RT-PCRおよびリアルタイムPCRを用いて標的遺伝子の発現量を解析する。共生因子は標的臓器内で発現が高くなると予測され、共生と増殖のステージ転換に関わる因子等は発現量に変化が生じることが想定される。
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Research Products
(2 results)