2019 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫中腸幹細胞培養系を基盤とした生理学および病理学的実験プラットフォームの構築
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17H03944
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
小林 淳 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (70242930)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
東 政明 鳥取大学, 農学部, 教授 (20175871)
伊藤 雅信 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 教授 (60221082)
森 肇 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 教授 (80201812) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中腸幹細胞 / カイコ / Bacillus thuringiensis / Cry毒素 / 昆虫病原ウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
1.各種昆虫中腸幹細胞培養技術の開発・改良 (1)カイコ:カイコ幼虫から大量に中腸幹細胞を調製することが可能になった.また,分裂を促進させ,幹細胞生存率を向上させるためには,4齢幼虫の血清成分の添加が効果的であった.この血清成分を幼虫脱皮時の幹細胞へ添加すると,幹細胞の集塊化が観察された.また,成虫中腸の幹細胞への添加では,幹細胞の分裂と集塊化が促進された.(2)野蚕:エリサン4眠幼虫および蛹から分離回収した中腸幹細胞の培養はカイコと同じ条件では生存率の向上が認められなかった. 2.培養中腸細胞の生理学研究への応用 カイコおよびエリサンの中腸幹細胞のRNAseqによる遺伝子発現特性解析を試みたところ,カイコでは胚子由来の培養細胞ではほとんど検出されない各種消化酵素やトランスポーターなど消化管特異的な遺伝子発現が確認された.エリサンについては,ゲノム情報が不完全で解析が遅れているが,少なくともカイコと同じ消化酵素遺伝子の発現が確認されたことから,分離直後の中腸幹細胞には,形態的に未分化だが,遺伝子発現レベルでは機能分化した細胞が多数含まれていると考察された. 3.培養中腸細胞の病理学研究への応用 (1)BTのCry毒素の作用メカニズムの解析:BT のCry毒素多角体のキイロショウジョウバエ幼虫に対する影響を調査した.成虫までの生存率を調べた結果、いずれの条件においても生存率は90%程度であり,コントロール群と多核体投与群の生存率に有意差は見られなかった.また,生育遅延なども観察されなかった.これらの結果から,キイロショウジョウバエの消化管内のpH条件では,摂取した多角体の溶解が妨げられることにより内包Cry毒素が働かない可能性が示唆された.(2)各種昆虫病原ウイルス感受性解析:中腸幹細胞培養系の開発・改良と生理学研究を優先し,実施を見合わせた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分担研究者の東によるカイコ中腸幹細胞培養系作製の基本プロトコールがほぼ確立され,さらなる改善および維持と分化誘導に役立つ新技術の開発が進行しており,研究代表者の小林においてはカイコとエリサンの中腸幹細胞の遺伝子発現特性解析に導入したRNAseq技術がうまく機能し,生理学および病理学研究の進展が加速しつつある.また,BT毒素に関しては,分担者森によるプロテインチップの作製の基本技術開発が完了し,分担者伊藤によるBT毒素の作用機構解明も概ね計画通り進展している.なお,エリサンの中腸幹細胞培養技術の開発が想定よりも難航しているため,それ以外の昆虫の中腸幹細胞培養系の開発への応用になかなか手が回らない状態だが,前例のない技術開発だけに想定内の遅れといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
1.各種昆虫中腸幹細胞培養技術の開発・改良(1)カイコ:これまでに確立した幹細胞の簡便な調製法をまとめて公表する.また,熱処理血清成分の添加が分裂促進に効果的であることから,通常の液体培養から細胞外マトリックスを支持体にした3次元の培養を試みる.さらに,幹細胞の初代培養の特徴付けおよび保存方法の改善や長期培養維持についての定量的な評価を行う. (2)野蚕:エリサンの中腸培養系のさらなる改良・最適化を進めるとともに,RNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析を行い,幹細胞の特性をカイコと比較する. 2.培養中腸細胞の生理学研究への応用(1)分泌機能および輸送機能の解析および(2)機能分化に伴う遺伝子発現制御の解析:RNAseqにより中腸幹細胞培養分化系の分化途上における遺伝子発現パターンの変化を網羅的に解析し,機能分化メカニズム研究モデルとしての有効性を検証する. 3.培養中腸細胞の病理学研究への応用(1)BTのCry毒素の作用メカニズムの解析:高濃度の活性型Cry毒素ペプチドを内包化した多角体プロテインチップを調製し,Cry毒素の量と生存率の関係を解析する.また,酸分泌に関わる遺伝子をノックダウンしたショウジョウバエ系統を用いて,双翅目昆虫におけるCry毒素の作用機序を明らかにする. (2)各種昆虫病原ウイルス感受性解析:カイコおよびエリサン中腸幹細胞培養分化系を用いて,各種ウイルス感染後の遺伝子発現の変化をRNAseqにより網羅的に解析し,消化管からのウイルス侵入に関する分子遺伝学的メカニズム研究のモデル実験系としての有効性を検証する.
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Research Products
(4 results)