2017 Fiscal Year Annual Research Report
Temperature and light signals in plant cold acclimation
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17H03961
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
上村 松生 岩手大学, 農学部, 教授 (00213398)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河村 幸男 岩手大学, 農学部, 准教授 (10400186)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 低温馴化 / 低温シグナル / 光シグナル / 凍結耐性 / シロイヌナズナ |
Outline of Annual Research Achievements |
異なる光と低温条件下での低温馴化: 低温馴化制御における赤色光受容体フィトクロームB(PHYB)の役割を検討した.シロイヌナズナ野生型とphyB欠損株を低温馴化し、凍結融解試験を行った。その結果、野外の気温が0~10Cになる11月19日~26日に馴化した植物の凍結耐性が最も高かった。つまり、野外の植物はこの範囲の温度で低温馴化を始めていると考えられた。さらに、11月14日~21日と19日~26日に低温馴化した場合、日長の違いはほとんないにもかかわらず、野生型よりphyBの凍結耐性が低かった。次に、人工気象器内では、昼11C/夜2C条件では12時間より短い日長が凍結耐性上昇をもたらし、phyBは野生型に比べて凍結耐性が低かった。2C一定条件で、いずれの日長においても凍結耐性が上昇し、日長が短いほど凍結耐性が高い傾向があった。また、8時間日長の場合、野生型とphyBの凍結耐性はほぼ等しかった。これらのことから、植物は気温と日長の情報を統合して季節を判断しており、その統合にPHYBが関与していると示唆された。さらに、0~10C前後の温度帯で日長が12時間以下となる秋のような環境では、PHYBが凍結耐性の誘導に強く関与していると考えられた。さらに、青色光受容体クリプトクロームやフォトトロピンの関与についても実験を開始した。
タンパク質変動解析:低温馴化過程の温度や光質条件を変えた場合の様々な細胞内画分におけるプロテオーム解析を始めた。低温馴化前後の野生型と光受容体欠損体を用いて定法に従って細胞分画・試料調整した後、nanoLC-MS/MSを用いてショットガン解析を実施した。現在、データ解析を実施中である。サンプル数が多いことと解析を多方面にわたって実施しているために時間を要している。今後、プロテオームの結果と遺伝子発現データなどを組み合わせ、温度と光質の認識機構を明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、当初計画していたことに関する解析の前に確認すべきことが生じたため、一部計画の変更が必要となったものの、新しく行った実験によって興味深い結果が得られたことから、総合的にはおおむね順調に進展していると判断した。 植物の低温適応機構を理解するため、複数の環境因子(温度と光)の相互作用を理解したいということで開始し、低温情報の細胞内への伝達に重要な役割を果たす細胞膜に焦点を当てた研究を計画していたが、その前に、温度と光情報を受容した植物の応答を表現型から解析する必要があると認識し、平成29年度はその点に力を注いだ。その結果、赤色光受容体が温度と光の情報を統合するプロセスで重要な役割を果たすこと、さらに、その役割は植物が曝される温度帯や日長条件で可変すること、などが明らかになった。このことは、野外で秋から冬にかけて低温馴化する植物の環境応答機構を生理学的、および、分子生物学的に解析していく次年度以降に重要な指針を与えるものとなる。 さらに、青色光受容体に関しても実験を進めている。まだ予備的な結果に過ぎないが、青色光受容体も低温の認識や細胞内への情報伝達系に対して複雑な影響を与えていることが示唆されており、次年度以降に解析をする予定である。 当初計画されていた細胞膜プロテオーム解析は、細胞膜だけではなく他の細胞内画分を含めた解析を特定の光受容の有無(光受容体欠損株を用いる)を考慮して解析する計画で進めている。現在までに、いくつかのサンプルの質量分析器によるデータ収集を終え、オミクス解析手法を駆使して解析を進めている。さらには、遺伝子発現データベースや当研究室に蓄積されている低温馴化に関わるプロテオーム・トランスクリプトームデータを組み合わせたさらに深化させた解析も計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、当初計画していたことに関する解析の前に確認すべきことが生じたため、平成29年度は一部計画を変更して研究を実施した。平成30年度もさらに得られた興味深い研究結果を展開すると同時に、当初計画にあるプロテオーム解析をトランスクリプトーム解析などと組み合わせて実施する予定である。
温度と光情報を受容した植物の応答を表現型から解析する項目については、青色光受容体(クリプトクロームやフォトトロピン)も実験対象に加え、フィトクロームが受容する赤色光に加えて青色光が果たす低温馴化機構への関与を解析し、光質の違いによる低温馴化制御機構の理解を目指す。さらに、野外の複雑な環境条件下での低温馴化機構を理解するための実験データ解析および今後の研究展開についても考慮する。
プロテオーム解析に関しては、平成29年度から継続している細胞内各画分に関するプロテオーム解析を進め、特定の光受容の有無(光受容体欠損株を用いる)を考慮した実験系による解析を進める。さらに、プロテオーム変動のメカニズムを理解するため、遺伝子発現データベースや当研究室に蓄積されている低温馴化に関わるプロテオーム・トランスクリプトームデータを組み合わせ、どのようにことが原因でプロテオーム変動が生じるのか、その変動が光によってどのような影響を受けるのかなどについて理解する取り組みを進めていく。
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Research Products
(14 results)