2017 Fiscal Year Annual Research Report
アポリポタンパク質の構造異常によるアミロイド線維形成の分子機構解明と制御法の開発
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17H03979
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Research Institution | Kyoto Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
斎藤 博幸 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (60300919)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 典裕 神戸薬科大学, 薬学部, 教授 (90205477)
坂下 直実 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学系), 教授 (90284752)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 薬学 / 生物物理化学 / 蛋白質 / 脂質膜 / 抗体 / アミロイドーシス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、血中や脳内でのコレステロール輸送を制御しているアポリポタンパク質が、遺伝子変異や修飾等によって全身性あるいは脳アミロイドーシス発症を引き起こす分子機構の解明と制御法の開発を目的として、アミロイド線維形成過程の速度論的・熱力学的解析を行うと共に、脂質や糖鎖等の体内因子による線維形成・臓器選択的沈着・毒性発現メカニズムに関する生化学的・細胞生物学的解析から、アポリポタンパク質アミロイド形成機構の分子論を解明する。さらに、アミロイド線維の高感度検出法と形成制御・代謝回転促進技術の開発に向けた新規アミロイド抗体の開発や天然由来化合物の探索を行うことで、アミロイドーシス疾患の新たな診断・治療法開発のための科学的基盤の構築を目指している。 平成29年度は、アポA-Iアミロイド形成に対する細胞脂質膜環境に影響を検討した。その結果、酸性リン脂質であるホスファチジルセリンが、アポA-IのIowa(G26R)変異を含む線維化領域との静電的相互作用によりαヘリックス構造を安定化させることで、アポA-Iのβ構造転移・線維形成を抑制することが明らかとなった。すなわち、生体膜脂質組成はアポA-Iと脂質膜との相互作用様式を変化させることでアポA-Iのアミロイド線維形成を制御している可能性が示された。 また、アポリポタンパク質アミロイド線維特異的なモノクローナル抗体の開発を目的として、アポA-Iアミロイド線維で免役したマウス由来ハイブリドーマ細胞のスクリーニングを行い、アポA-Iアミロイド線維を特異的に認識する構造特異抗体を産生する4種類のハイブリドーマクローン候補を得た。ELISA及びDot blotにより、これら線維特異抗体は従来の抗アポA-Iと同等のアポA-Iアミロイド線維親和性を示す一方、アポA-Iの一次配列を認識しないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
脂質膜やグリコサミノグリカン糖鎖などの生体膜環境が、アミロイドタンパク質の凝集・線維化挙動を制御していることが知られており、アポA-Iアミロイド形成・細胞毒性においても脂質膜やヘパリン・ヘパラン硫酸の関与が示唆されている。平成29年度は、酸性リン脂質であるホスファチジルセリン及び生体膜の主構成成分であるコレステロールがアポA-Iのアミロイド線維形成に及ぼす影響を調査した。その結果、ホスファチジルセリンがアポA-Iの線維形成を強く抑制する一方、コレステロールは線維化における核形成過程を促進することが明らかとなった。そこで、ホスファチジルセリンによる線維化抑制の分子メカニズムを明らかにする目的で、円偏光二色性測定による脂質膜上での二次構造変化の観測や部位特異的蛍光標識による局所環境変化の検出、さらには等温滴定型熱量測定による脂質膜結合熱力学パラメータの比較等を行ったところ、ホスファチジルセリン頭部の負電荷がアポA-I分子のG26R変異を含む線維化領域と静電的に相互作用することにより、脂質膜上でのアポA-Iのαヘリックス構造を安定化することでβ構造転移・線維形成を抑制していることが示された。これらは、アポリポタンパク質アミロイド線維の臓器選択的沈着メカニズムの解明につながる重要な知見である。 また、アポリポタンパク質構造異常に関連する病態解明や新たな疾患バイオマーカーの開発を目的として、アポリポタンパク質構造特異抗体の新規開発に着手した。アポA-Iアミロイド線維で免役したマウス由来ハイブリドーマ細胞のスクリーニングから、アポA-Iアミロイド線維を特異的に認識する構造特異モノクローナル抗体候補が得られた。今後、アミロイド線維に特異的かつ高感度なサンドイッチアッセイ系開発への応用が期待される成果である。 以上のように、当初の研究計画に対しておおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、アポリポタンパク質アミロイド線維形成反応の物理化学的メカニズムを解明するため、速度論的・熱力学的解析を進める。具体的には、アポリポタンパク質の試験管内での凝集・線維化過程に関して、線維形成に伴うタンパク質二次構造変化や線維結合プローブの蛍光変化を経時的に追跡し、Finke-Watzky 2パラメータ(核形成-自己触媒線維伸長)モデルによる速度論的解析を行う。また、等温滴定型微量熱量計による線維化エンタルピーの直接観測や核形成-線維伸長過程の活性化エネルギー測定などの熱力学的解析によって、凝集・線維化反応のエネルギー状態相関を明らかにすることで、線維形成反応の速度論的・エネルギー的律速過程や各会合体構造間の動的エネルギー平衡などの物理化学的観点からアポリポタンパク質によるアミロイド線維形成機構を解明する。これらアミロイド線維形成反応の解析は、タンパク性体内因子や抗体、天然由来化合物の作用点解明における理論的基盤を与える点で重要である。 また、平成29年度に開発したアポA-Iアミロイド線維構造特異モノクローナル抗体について、その特性解析をさらに進めると共に、培養細胞や疾患組織部位でのアミロイド線維高感度検出を目的とした高感度イムノアッセイ系の構築を行う。また、アミロイド抗体による線維形成阻害や線維脱会合・代謝回転促進作用を検討することで、アミロイドーシス疾患に対する新規抗体療法開発につながる知見を得る。
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