2017 Fiscal Year Annual Research Report
Brain temperature and microglia
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17H03988
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小山 隆太 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (90431890)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マイクログリア / シナプス / けいれん / てんかん / 温度 |
Outline of Annual Research Achievements |
てんかんはニューロンの過剰な発射を要因とする脳疾患であり、変異に富んだ臨床ならびに検査所見の表出をともなう。これまでの抗てんかん薬は、既に生じているてんかん発作を対症療法的に抑制する目的で使用されているが、約20-30%の患者の発作が完全にはコントロールできていない。そこで、てんかんを発症するまでの過程(てんかん原性の獲得過程)に作用する薬物の開発が期待されている。 我々は、てんかん原性の獲得に寄与する現象として、乳幼児期に生じる複雑型熱性けいれんと、脳内免疫細胞であるマイクログリアに着目した。熱性けいれんは通常38℃以上の発熱によって引き起こされるが、けいれん状態が重篤な複雑型熱性けいれんは、将来のてんかん発症に関与することが示唆されている。しかし、複雑型熱性けいれん後のてんかん原性の獲得過程におけるマイクログリアの役割は殆ど明らかにされていない。 そこで、本研究では高温刺激によって誘導する実験的熱性けいれんモデルマウスを利用して、熱性けいれんによるマイクログリアのプロパティ変化を詳細に検証した。その結果、熱性けいれん後の歯状回では、マイクログリアが抑制性シナプスを貪食することで、シナプスE/Iバランスが興奮性優位に傾斜することが明らかになった。なお、シナプスE/Iバランス破綻の結果として、熱性けいれん後のけいれん閾値が低下した。また、これらの現象は、マイクログリアの不活性化薬であるミノサイクリンによって抑制された。 以上の発見は、熱性けいれん後の抑制性シナプス貪食にマイクログリアが関与することを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画A-1:熱性けいれんモデルマウスの利用による脳温の測定 本研究では、生後11日齢のマウスの体温を赤外線照射によって39℃以上42℃以下までに上昇させ、これを15分間維持してけいれんを誘導するモデルを利用する(Schuchmann S, et al. Nature Medicine. 12:817-823, 2006)。同モデルマウスの熱性けいれん中の脳温が39℃以上に上昇することを確認した。 計画A-2:熱性けいれんモデルマウスの利用によるシナプス興奮/抑制バランスの解析 熱性けいれん後のてんかん発症に重要な役割を果たす海馬歯状回の顆粒細胞におけるシナプス興奮/抑制バランスを免疫染色法によって検証した。その結果、熱性けいれん3日後では、抑制性シナプス密度が顕著に減少していた。なお、興奮性シナプス密度に変化はなかった。以上のことは、少なくとも構造学的に、歯状回における興奮/抑制バランスが興奮性優位に傾斜したことを示す。さらに、電気生理学的手法を利用して、機能的にも興奮/抑制バランスが興奮性優位になっていることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の計画を進める。 計画A-4:海馬スライス培養法の利用による、熱刺激によるマイクログリア活性化メカニズムの解明。 熱刺激およびTRPV4活性化がマイクログリアの動態(シナプス除去に必要なプロセス運動など)に影響を与えるメカニズムを明らかにする。培養スライスの最大の利点は、in vitro実験系でありながら、個体動物と同様な神経回路環境および全ての細胞種を含む点である。また、in vitro実験系であるが故、操作性が高い。すなわち、薬理学的検証や遺伝子操作の応用、そしてタイムラプスイメージングが簡便である。この利点を利用し、マイクログリアがシナプス除去に関与する可能性を直接的に検証するためのリアルタイムイメージングをおこなう 計画A-5:マイクログリアオーバーレイ法の開発とその利用(TRPV4の関与解明)。 TRPV4は各種細胞に発現する。そこで、マイクログリアが発現するTRPV4が熱刺激によって直接活性化されることが貪食誘導に必要であることをより高い確度で確認するために、以下に説明するマイクログリアオーバーレイ法を開発する。この手法は、マイクログリアを除去した海馬スライス培養系に、遺伝子改変動物より単離したマイクログリアを播種する方法である。この方法により、培養スライス中のマイクログリアにのみ、特異的な遺伝子特性を持たせることが出来る。のみ単離が可能)により単離し、先の海馬スライス上に播種(オーバーレイ)して培養する。本系において、TRPV4のアゴニスト処置や高温暴露をおこない、シナプス貪食の有無を検証する。また、逆にスライス切片をTRPV4ノックアウトマウスから作成し、野生型マウスからマイクログリアを単離してオーバーレイ法を行えば、マイクログリア以外の部位に存在するTRPV4の寄与も検証することができる。
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Research Products
(8 results)