2018 Fiscal Year Annual Research Report
心臓徐脈を支える分子機構に基づく不整脈発生機構の数理解析
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17H04018
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
倉智 嘉久 大阪大学, 国際医工情報センター, 教授 (30142011)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲野辺 厚 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (00270851)
津元 国親 金沢医科大学, 医学部, 准教授 (70353331)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 心臓徐脈 |
Outline of Annual Research Achievements |
G蛋白質制御内向き整流性カリウム(KG)チャネルは迷走神経刺激依存性の徐脈に機能する。KGチャネルはG蛋白質共役型受容体-G蛋白質-効果器(R-G-E)シグナルで調節される古典的な効果器である。これまで我々はR-G-Eシグナルの数理モデルを構築し、分子連関と細胞膜電位という2つの異なるレベルの複合モデルから、組織機能として心臓徐脈機構を解析してきた。 近年報告された慢性心房細動、洞不全症候群などの上室性不整脈における異常KGチャネル活性を既存のモデルで合理的に再現することは困難であった。そのため、我々は未知の生理的なチャネル調節機構を想定することが必要であると考えた。これまで我々が積み上げて来た実験科学的知見と、既報のアイデアを掘り返し、数理モデルの精密化を目指した。 KGチャネルは膜貫通領域と細胞質領域から構成され、4つのサブユニットの集合中心軸にイオン透過経路が位置する。大きな構造変化を伴うチャネル開閉の構造平衡は、活性化因子リン脂質PIP2やG蛋白質βγサブユニットによって調節され、機能状態が規定される。 KGチャネルKir3.2の細胞質領域内の外向きのイオン移動を調節するポリアミン、Mg2+結合部位(Glu)にArgを導入すると、イオン透過性の低下、βγサブユニット非依存的な活性化が観察された。その構造基盤をX線結晶構造解析によって解析した。まず、易結晶化特性から、変異効果の一つが構造の安定化であることが判った。さらに、1.4Åの高分解能の構造情報から、導入したArgは隣のサブユニットの主鎖と水素結合することで、領域内の構造を安定化させていることが判った。さらに、非蛋白質性低分子がサブユニット境界面に存在することが判った。類似構造のモデル化合物はチャネル活性を低下したため、同領域が阻害薬の結合部位であり、新規のアロステリックモデュレーターの結合部位であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞レベルで観察されるR-G-E連関の脱感作と同様に、KGチャネルの単一チャネル活性も同じ時間スケールで、脱感作反応を示す。サブユニット組成や発現ホスト細胞を変えても同様に観察されるため、内因性のチャネル調節機構であると推定された。しかし、この脱感作現象を明らかに修飾する薬物は、検討した市販のリン酸化酵素やPIP2代謝酵素の阻害剤には存在しなかった。しかしながら、今年度は高分解能チャネル構造の電子密度を検討し、非蛋白質性の低分子がサブユニット境界面に存在すること、そのモデル化合物にチャネル活性を抑制する作用があることを見出した。これまで、同領域に低分子化合物が結合することは知られていない。空間分解能の高い構造情報は、情報科学的に正確な薬物との結合様式の抽出と、新規の結合薬物の設計を可能とする。スクリーニングの際、検索対象の低分子化合物を内因性分子に規定することで、新奇の低分子―チャネル相互作用と生理的チャネル制御機構の解明が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
チャネルの機能状態と上室性不整脈との連関を数理解析するためには、現有する心臓徐脈分子機構の数理モデルに拡張性を持たせる必要がある。我々が構築に成功した心房筋細胞で生理的に測定される短期脱感作機構を組込んだR-G-Eシグナルの数理モデルは、高次組織モデルである洞結節活動電位発生モデルで、強い迷走神経刺激で生じる一過性の心停止を再現できるものだった。今年度我々は単一チャネルレベルで同じ時間スケールで観察される脱感作反応を普遍的な内因性のチャネル調節機構と捉え、R-G-E連関を修飾しうる液性因子、リン酸化酵素やPIP2代謝酵素の阻害剤をガラス電極液中に加え、全細胞電流測定法で観察した。しかし、単一チャネルレベルの脱感作反応を抑制する薬物は見つからなかった。それに代わり、今年度は高分解能チャネル構造中に見出された低分子化合物がチャネル活性抑制作用を有することを見出した。これまで、同領域のサブユニット境界面に化合物が結合することは知られていない。そして、モデル化合物のチャネル抑制活性は、同領域への薬物結合がチャネル機能を修飾できること意味する。一般的に、高分解能の蛋白質立体構造情報は薬の結合部位の探索と正確な結合様式の抽出を可能とする。以上のことから、1)同領域に結合するアロステリックモデュレーターを情報科学的に同定する。2)検索対象を細胞内低分子、及びその代謝物に絞り込むことで、生理的にチャネル機能を修飾する因子の探索を行う。そして、3)同定した化合物の薬物作用の検討を行う。以上の研究から、生理的にR-G-E連関を修飾する因子を見出し、R-G-Eシグナルシュミレーションモデルの構築を行う。
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Research Products
(2 results)
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[Journal Article] Systematic expression analysis of genes related to generation of action potentials in human iPS cell-derived cardiomyocytes.2019
Author(s)
Kodama M, Furutani K, Kimura R, Ando T, Sakamoto K, Nagamori S, Ashihara T, Kurachi Y, Sekino Y, Furukawa T, Kanda Y, Kurokawa J.
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Journal Title
J Pharmacol Sci.
Volume: 140
Pages: 325-330
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Mutant KCNJ3 and KCNJ5 Potassium Channels as Novel Molecular Targets in Bradyarrhythmias and Atrial Fibrillation.2019
Author(s)
Yamada N, Asano Y, Fujita M, Yamazaki S, Inanobe A, (w/ 30 authors), Kurachi Y, Sakata Y, Minamino T, Kitakaze M, Takashima S.
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Journal Title
Circulation
Volume: 139
Pages: 2157-2169
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research