2018 Fiscal Year Annual Research Report
革新的質量分析法を用いた悪性中皮腫診断マーカーの同定
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17H04059
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鶴山 竜昭 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (00303842)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉澤 明彦 京都大学, 医学研究科, 准教授 (80378645)
平塚 拓也 京都大学, 医学研究科, 特定講師 (90641639)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 質量分析 / タンパク質 / 中皮腫 |
Outline of Annual Research Achievements |
患者検体を含むホルマリン固定組織の切り出し後、導電体スライドガラスへの伸展技術の確立と化学処理の有機溶剤による溶出溶液の最適化、超音波破砕条件、複数実施検討した。質量分析用再溶解溶液、質量分析前の還元・アルキル化及びトリプシン消化の条件を最適化した。処理後、組織サンプルはリコンビナントトリプシンで処理され、ナノフロー逆相LCを用いてTrap-and-elute法により分離された。その後、トラップカラム上に自動的に注入する方法で効率性を高めた。溶出されたペプチドは、エレクトロスプレーイオン源を備えた四重極飛行時間型ハイブリッド質量分析計を用いて分析した。以下各ステップで確立したプロトコールをしめす。 (1)抽出タンパク質効率の向上と定量再現性のため、質量分析で汎用される重炭酸アンモニウムとアトニトリル溶液、尿素の混合液 Tris-HCl(pH9)、SDSの3種類の抽出液を用いて、比色法で測定するプロトコールを確立した。さらに、SDS-PAGEを用いた蛍光強度の比較定量の有効であることを確認した。その結果、Tris-HCl(pH 9)、SDS、ベータ-octyl glucoside、グリシンの混合物を用いた場合が抽出効率が最も高かった。(2)破砕は、チューブ、プロテアーゼインヒビター、ビーズ式破砕装置の採用と破砕周波数設定など各最適条件が確立された。(3)ペプチドのアミノ酸組成による抽出効率の検討を行った。タンパク質同定数が少ない場合は、平均のGRAVY score(疎水性度)は高値を示しており、親水性ペプチドの喪失の可能性が示唆された。今後の課題として、バイオマーカになりやすい親水性ペプチドの喪失が抑制される効率の高い方法をさらに開発することがのぞまれた。以上、基本的なプロテオミックス技術がほぼ確率された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ホルマリン固定標本(FFPE)をもちいた病理組織標本の質量分析法の標準プロトコールの確立は、本研究における技術確立の中核をなすものであった。研究過程において克服すべき困難さとして、FFPEは、固定による架橋反応のため、プロテオミクスの研究試料として限界があると考えられてきた。具体的には、(1)疎水性が高く溶出が難しい、(2)(1)のため、バイオマーカ探索に必要なタンパク質の量が確保できない、(3)手術材料のため、ホルマリン固定条件が一定せず、サンプル間比較が難しい、(4)サンプル調整時の混入を防止するのは難しい、といった大きな課題があった。これらの諸困難を克服するため、これまで報告された方法(自験例も含め)を徹底的に比較し検証した。その結果、溶出できたタンパク質を液体クロマトグラフィー質量分析法を用いて、ペプチド断片からタンパク質を同定したのち、これらそれぞれの疎水性の定量的評価方法をGRAVY scoreを用いることで確立することができた。さらにタンパク質の一覧から、試料全体に含まれるタンパク質の統計解析を行った。その結果、採取されたペプチドの物理化学的な性質の傾向が明らかとなり、十分なタンパク質がえられない場合には疎水性のものが多く認められる偏りがあることが判明した。ここから、親水性のタンパク質(ペプチド)の比率を増やすという、さらなる溶出方法の改善の方向性が明確となった。加えて、架橋反応による疎水性の克服のため、徹底的な超音波破砕を行う独自の方法を確立した。実際に液体クロマトグラフィー質量分析法を用いたFFPEサンプルの分析をすすめた結果、いくつかの腫瘍性抗原を同定することができた。これらは大きな進歩であり、次年度からの本格的な中皮腫標本を用いたバイオマーカ探索に期待が持てる結果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までにほぼ確立したFFPEを用いた定量分析方法を用いて、実際の患者の肺組織(中皮腫および反応性中皮)を用いて系統的なタンパク質分析を行う。中皮腫の上皮性、肉腫様、二相性など組織学的に多彩な組織学分類に基づき、組織型ごとにタンパク質のオミックス解析を行う。反応性中皮組織との比較によって中皮腫の各組織型それぞれに特徴的な組織学的なバイオマーカー探索を行う。組織型によって予後が異なるため、治療標的となるバイオマーカーだけでなく、組織診断をただちに確定できる免疫染色の抗原などの診断バイオマーカーもその臨床的意義は大きい。特にバイオマーカーとして、患者の末梢血中に現れる可能性のある、親水性のタンパク質を中心に検討を行う。同定できたバイオマーカーは、同じ標本組織を用いて免疫染色で確認するとともに、さらに質量分析イメージング(2020年度計画)を併用して同定タンパク質の局在ないし二次元分布を確認する。 具体的には当初、中皮腫のホルマリン固定組織は30~40例の、ティッシュマイクロアレイ組織コアを用いてバイオマーカー探索を実施する。標本のダイセクション、超音波破砕、溶出プロトコール、再溶解プロトコール、液相クロマトグラフ質量分析は前年度までに確立したものを採用して行う。質量分析のデータはProtein Pilot(ver. 5; SCIEX)を用いて、パラゴンアルゴリズムに基づいた解析を行う。シークエンスの同定にはUniprotデータベース(2018/11, Homo sapiens) 、既知のコンタミナントデータベース(SCIEX)を用いる。タンパク質の一覧からPANTHER(http://www.pantherdb.org/)を用いてGene Ontology(GO)解析を行う。疾患対照群である反応性中皮細胞とのプロファイリングを参照して、中皮の機能解析とともに、中皮腫の生物学的性状とよく相関するものをバイオマーカ候補としてさらに検討をすすめる。
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Research Products
(7 results)
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[Journal Article] Human Atrial Natriuretic Peptide in Cold Storage of Donation After Circulatory Death Rat Livers: An Old but New Agent for Protecting Vascular Endothelia?2019
Author(s)
Nigmet Y, Hata K, Tamaki I, Okamura Y, Tsuruyama T, Miyauchi H, Kusakabe J, Tajima T, Hirao H, Kubota T, Inamoto O, Yoshikawa J, Goto T, Tanaka H, Uemoto S.
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Journal Title
Transplantation
Volume: 103
Pages: 512-521
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Arid1a is essential for intestinal stem cells through Sox9 regulation.2019
Author(s)
Hiramatsu Y, Fukuda A, Ogawa S, Goto N, Ikuta K, Tsuda M, Matsumoto Y, Kimura Y, Yoshioka T, Takada Y, Maruno T, Hanyu Y, Tsuruyama T, Wang Z, Akiyama H, Takaishi S, Miyoshi H, Taketo MM, Chiba T, Seno H.
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Journal Title
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
Volume: 116
Pages: 1704-1713
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Laminin 511 is a target antigen in autoimmune pancreatitis.2018
Author(s)
Shiokawa M, Kodama Y, Sekiguchi K, Kuwada T, Tomono T, Kuriyama K, Yamazaki H, Morita T, Marui S, Sogabe Y, Kakiuchi N, Matsumori T, Mima A, Nishikawa Y, Ueda T, Tsuda M, Yamauchi Y, Sakuma Y, Maruno T, Uza N, Tsuruyama T, Mimori T, Seno H, Chiba T.
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Journal Title
Science Translational Medicine
Volume: 10
Pages: 0997
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Human Sox4 facilitates the development of CXCL13-producing helper T cells in inflammatory environments.2018
Author(s)
Yoshitomi H, Kobayashi S, Miyagawa-Hayashino A, Okahata A, Doi K, Nishitani K, Murata K, Ito H, Tsuruyama T, Haga H, Matsuda S, Toguchida J.
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Journal Title
Nature Communication
Volume: 9
Pages: 3762
DOI
Peer Reviewed
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