2019 Fiscal Year Annual Research Report
革新的質量分析法を用いた悪性中皮腫診断マーカーの同定
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17H04059
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鶴山 竜昭 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (00303842)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉澤 明彦 京都大学, 医学研究科, 准教授 (80378645)
平塚 拓也 京都大学, 医学研究科, 特定講師 (90641639)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 悪性中皮腫 / 質量分析 / タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
悪性中皮腫を肺がんなど関連疾患との比較分析においてすすめている。当初の目的である鑑別診断と組織構築に特異性がある上皮型、肉腫型の中皮腫の腫瘍化・病態の理解に関わる病理組織診断バイオマーカーの同定を得るため、胸膜結合組織、悪性中皮腫例(上皮型中皮腫、肉腫型中皮腫)について、組織分類にしたがって中皮腫組織を選別した。中皮腫サンプルからのタンパク質抽出技術を確立し、液体カラムクロマトグラフィー質量分析をすすめている。特に、上皮型中皮腫の組織の分析を中心にすすめた。最適破砕周波数設定に従って超音波破砕装置をもちいた組織の断片化、加熱、溶媒処理を行った。前年度まで用いてきたTris-HCl(pH 9)、SDS、ベータ-octyl glucoside、グリシンの混合物を用いた抽出液に加え、CH3CN、 NH4HCO3混合液への懸濁、95℃加熱、冷却を行う新たな抽出液を用いた。通常のBCA法による比色法測定と併行して抽出タンパク質の電気泳動による確認、染色後の輝度の測定により、より正確なタンパク質濃度を測定し、定量性の確保につとめた。また質量分析イメージングについては関連疾患である肺小細胞がんの脳転移症例を含めた分析に成功した。これにより、小細胞がんにおいてヒストンタンパク質群(Histone H2A, H2B, H4)が高値であることがわかった。このことはすでに分析をはじめている類似した小細胞型中皮腫との比較において重要な示唆を与えるものであった。関連データは、日本臨床検査医学会、日本病理学会で発表した( 臨床病理 (0047-1860)67巻補冊 Page197(2019.10)、グリオブラストーマ、転移性脳腫瘍の質量分析イメージング、鶴山竜昭、平塚拓也など)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
正常中皮20例を含む、胸膜などの結合組織、肺腺癌、悪性中皮腫例(上皮型中皮腫、肉腫型中皮腫)を用意した。ホルマリン固定標本(FFPE)をもちいた病理組織標本の質量分析法の標準プロトコール(超音波破砕による前処理、抽出方法)の確立は終えた。液体クロマトグラフィー質量分析の定量比較のための濃度測定プロトコールの確認を、定性分析と併行してすすめた。 現在の課題は、肺・胸膜のFFPEは、特に疎水性が高いこと、線維性結合組織成分が極めて多く、このため、コラーゲンなどの線維由来で、バックグラウンドノイズとなるタンパク質の濃度がきわめて高く、組織特異的なタンパク質の比率が低いことである。さらに固定による架橋反応のため、凝集体ないしバルクになっており、濃度ゆらぎが大きいことが、比較定量分析を困難としている。そこで、十分な定量性の確保につとめているペプチド断片からタンパク質を同定したのち、これらそれぞれの疎水性の定量的評価方法をGRAVY scoreを用いて、より可溶性・親水性・イオン化効率を高めるためアセト二トリル、炭酸水素アンモニウムの混合液への懸濁法を開発した。やや技術的な困難が予想された状況よりも多く、これが定量分析を遅らせていると考えている。 一方で、中皮を含む組織については、液体クロマトグラフィー質量分析法を用いたFFPEサンプルの分析を終え、比較となる肺組織のタンパク質プロファイルのデータベースをすすめることができた。また、中皮の小細胞型と、肺小細胞がんについては、申請者報告(Sci Rep. 2020 Apr 1;10(1):5757))の小細胞がんのタンパク質のデータベースを参照し、比較検討している。これらは大きな進歩であり、中皮腫標本を用いたさらなるバイオマーカ探索に期待が持てる結果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度中に確立した抽出・分析方法にもとづいて質量分析を引きつづき実施する。 中皮腫と健常対照群である中皮細胞、腫瘍性病変の比較対照群、肺がん(特に組織学的に上皮型中皮腫に類似している腺癌)のタンパク質プロファイリングを比較・参照して、バイオマーカーを同定する。得られた質量分析データーの妥当性検証として、既存の中皮腫陽性バイオマーカーの液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)を陽性コントロール・バイオマーカーとして確認を行う。一方、陰性バイオマーカーとして肺がんとの鑑別診断に用いるタンパク質などの検出レベルを検証し、中皮腫での発現の低下を確認する。その上で、正常反応性中皮との比較のため、参考となるタンパク質の発現について定量比較をLC/MSにより行う。有意差の検定は、これまでの報告例に従う。以上の陽性、陰性、定量的マーカーの比較検討をt-検定により有意差水準は p < 0.05に設定し実施する。その上で、各組織に共通して検出される非特異的なタンパク質を除外し、中皮腫で発現が増加しているタンパク質の同定をめざす。その結果、得られた悪性中皮腫特異的マーカーの候補を免疫染色で確認する。質量分析結果の妥当性を検証し、中皮腫での特異的バイオマーカーの同定を行う。イメージングについては申請者自身の既報告論文(Yajima Y, Hiratsuka T, Tsuruyama T et al. Sci Rep. 2018 May 10;8(1):7493.) を参考に引きつづき実施を行う予定である。前半期にタンパク質抽出作業、LC/MSの分析を終了し、最終年度にあたり、これまでの報告者の発表研究のスケジュールをかんがみ論文発表を年度内できるだけ早くに終える。
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Research Products
(2 results)