2017 Fiscal Year Annual Research Report
ヒトのデンタルバイオフィルムの網羅的解析と新規コントロール法の開発
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17H04384
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
恵比須 繁之 大阪大学, 歯学研究科, 特任教授 (50116000)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
朝日 陽子 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (50456943)
栗木 菜々子 (和氣菜々子) 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (60781432)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | デンタルバイオフィルム / in situ / 次世代シーケンス解析 / 日内変動 / 唾液 |
Outline of Annual Research Achievements |
デンタルバイオフィルムを構成する細菌は口腔の主な疾患である齲蝕や歯周病の主病因と考えられている.また,口腔疾患と全身疾患との関係も注目されており,デンタルバイオフィルムを制御することは口腔及び全身の健康を維持するために重要である.セルフケアを含めたデンタルバイオフィルムの物理的除去は,齲蝕や歯周病の予防及び歯の喪失防止に有効であることが多くの研究により明らかにされている.そのなかで,就寝前の口腔ケアが齲蝕や歯周病の予防に効果的であるという考えが広く浸透しているが,その科学的根拠は唾液中の細菌数を検討したものである(W. A. Nolte, 1982).申請者らは,ヒトの口腔で経時的・定量的にデンタルバイオフィルムを形成・評価できるin situバイオフィルムモデルを新規開発した(Wake-Kuriki et al. 2016).そこで,本年度は申請者らが開発したin situモデルにおいて,デンタルバイオフィルムの日内変動を多面的に検討した.次世代シーケンサーを用いた解析により,睡眠時に形成されるバイオフィルムは覚醒時と比較し構成細菌数には変化を認めないが,構成細菌叢においては,Prevotella属,Fusobacterium属といった偏性嫌気性細菌の割合を増すことを明らかとした.さらに,共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)を用いた定量的3次元解析を行ったところ,覚醒時および睡眠時に形成されるバイオフィルムはそれぞれの構造が異なり,睡眠時に形成されるバイオフィルムは覚醒時に形成されるものと比較し厚みが小さく,細菌の密度が高いことが示された.これは,睡眠中は唾液分泌量が低下し口腔内で形成されるバイオフィルム中の水分量も少ないために細菌密度が上昇したのではないかと考察される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,申請者らが開発したin situモデルにおいて,デンタルバイオフィルムの日内変動を多面的に検討し,より効果的なデンタルバイオフィルムのコントロール法を提示することである.現段階で, in situバイオフィルムモデルを用いてデンタルバイオフィルムを作製後,得られた試料よりcolony forming unit(CFU)を測定し,バイオフィルム形成細菌の生菌数の測定を行った.また, リアルタイムPCRによりバイオフィルム形成細菌の総菌数の測定を行った.さらに,申請者らは次世代シーケンス解析技術を用いたバイオフィルム内の構成細菌を同定する方法を確立しているため,その16S rRNAシーケンス解析を順調に進めており,現段階で,覚醒時と睡眠時に形成されるバイオフィルムの構成細菌叢の異同を明らかとしている.また,CLSMを用いたバイオフィルムの厚みや密度の測定を行う定量的3次元解析を行っており,睡眠時に形成されるバイオフィルムと覚醒時に形成されるバイオフィルムの立体構造の差異を明らかとした.以上のように,順調にデンタルバイオフィルムの日内変動の解析を進めている.以上の研究内容は, 平成29年10月27日岩手県で行われた第147回日本歯科保存学会2017年度秋季学術大会と,平成30年6月1日東京都での第61回春季日本歯周病学会学術大会で発表する.今後としては, デンタルバイオフィルム内の菌体外多糖の構造および性質の比較検討を行う必要がある.また,覚醒時および就寝中に分泌される唾液の性状およびデンタルバイオフィルム水分量の測定を行っていく必要性があると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,まず覚醒時および睡眠時に形成されるデンタルバイオフィルムのさらなる多面的解析が必要であると考えられる. 上記に述べたように,本研究より,睡眠時に形成されるバイオフィルムは覚醒時に形成されるものと比較し厚みが小さく,細菌の密度が高いことが示された.この立体構造の差異の原因を探求すべく, in situモデルにおいて,CLSMを用いた定量的3次元解析により,菌体外多糖の構造および性質の比較検討を行う必要がある。また,覚醒時および就寝中に分泌される唾液の性状およびデンタルバイオフィルム水分量の測定を行っていく必要性があると考えられる.このようなバイオフィルムの基礎的解析を迅速に行うために,それらの手技に精通している新潟大学の野杁由一郎教授に研究分担者として参加してもらう.それと共に,今後は,デンタルバイオフィルムへの各種薬剤の効果を比較検討することで, デンタルバイオフィルムのより効果的なコントロール法を提示したい.そのために,申請者が開発したin situモデルを用いてデンタルバイオフィルムを作製し,口腔使用が許可されている各種薬剤を使用した後,ディスクの採取を行い,以下の評価を行う.まず,colony forming unit(CFU)を測定し,バイオフィルム形成細菌の生菌数への効果を評価する.また,リアルタイムPCRによりバイオフィルム形成細菌の総菌数への影響を評価する.続いて,共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)によるバイオフィルムの3次元的定量観察を行う.さらに,次世代シーケンサーを用いて,バイオフィルムを構成する細菌を同定し,細菌叢への影響を評価する.以上のように,各種薬剤のデンタルバイオフィルムへの効果を多面的に評価し,そのメカニズムを解明することで, 科学的根拠に基づいたデンタルバイオフィルムのコントロール法の新たな開発を目指す研究に繋げたいと考えている.
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