2018 Fiscal Year Annual Research Report
モンゴルをとりまくエスノスケープとアイデンティティの重層的動態に関する実証的研究
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17H04508
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
滝澤 克彦 長崎大学, 多文化社会学部, 准教授 (80516691)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
島村 一平 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (20390718)
賽漢卓娜 長崎大学, 多文化社会学部, 准教授 (20601313)
荒井 幸康 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 共同研究員 (80419209)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | モンゴル / グローバル化 / エスノスケープ / 民族的アイデンティティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、グローバル化が進む現代世界におけるモンゴル系諸民族をとりまくエスノスケープとアイデンティティの動態を学際的な社会科学の観点から明らかにしようとするものである。本年度も、昨年度に引きつづき、国際/国内移動や新たな宗教や文化の受容によって「純粋」な「モンゴル」イメージから周辺的・境界的状況にある人々が生み出す「モンゴル」のイメージと、それが生み出す連帯や対立の図式について、各メンバーが現地調査と分析を行い、学術雑誌や学会、公開研究会において発表した。 現地調査としては、滝澤が、キリスト教への改宗者における民族的アイデンティティの再構築とそれにもとづく連帯の実態を、5000人ほどのモンゴル人が居住し、モンゴル人へ向けた礼拝を行う7つの教会が所在するスウェーデンにおいて現地調査した。賽漢卓娜は、中国モンゴル族の国内移動によって大都市北京に暮らすモンゴル族第2世代の民族的アイデンティティについて調査し、内モンゴル自治区遊牧地域ではモンゴル小学校、中学校、高校の在校生・教員への聞き取りを通して家族生活の変遷を調査した。荒井は、中国(新疆のオイラート人地域)、キルギスタン(イシックリ湖周辺のサルト=カルムイク人)および、モンゴル国(ホブトのオイラート人地域)においてオイラート人の自己認識と、博物館の展示に見る、諸地域でのオイラート人表象の調査を行った。島村は、モンゴル国においてヒップホップによって生み出される新たな「モンゴル」イメージに関する調査を行った。 また、2018年11月19日に公開研究会「モンゴル・ヒップホップをめぐるエスノスケープの現在」を開催し、ヒップホップというモンゴルにおける新たな文化と民族的アイデンティティの関係について議論した。前日の18日には、2人のモンゴル人ラッパーを招いた研究公演も開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた米国での集約的調査は調査先との調整ができなかったため実施できなかったが、代わりに前年度の研究を踏まえて、欧州、中国、モンゴル国、ロシアにおける個別調査を進展させ、国際学会等でその成果を公表するとともに、査読付き学術雑誌において複数の論文も発表した。なお、米国での集約的調査については、2019年9月に実施する予定である。 また、2017年度の成果を踏まえて実施した研究会では、ヒップホップの実践者を交えて新たな文化における民族的表象に関する有意義な議論を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度には、米国を中心にモンゴル国、ロシア、中国、韓国、欧州で現地調査を行い、モンゴル系民族の居住地と移住先で「モンゴル」を巡る エスノスケープがどのように生成され、それがどのように人々を結びつけているかを調査する。また、その結果を公開研究会において議論し、その議論を踏まえた分析結果を年度末までに各自まとめる。2020年度には、補足的な調査を行った上で共同研究全体の成果を出版物として公刊する予定である。 2019年度の具体的な調査研究予定としては、滝澤は、宗教を通じて新たに生み出される民族的イメージと、それによって結び付けられるネットワークの実態について米国、韓国、欧州において調査する。また、島村は、モンゴル国および中国(内モンゴル自治区)において音楽や芸能を通して新たに生み出される民族イメージと、それが結びつけるネットワークの実態について調査する。賽漢卓娜は、中国の民族的イベント(ナーダムなど)における民族イメージの生成と、そのイベントを通じて形成されるネットワークについて調査する。また、移住や国際結婚による民族的アイデンティティのゆらぎと、それを契機として捉え直され、表現される民族イメージについて中国および日本において調査する。荒井は、カルムイク人などモンゴル高原以外に暮らすモンゴル系民族とその移民のアイデンティティの実態についてロシアおよび米国において調査する。以上の調査の分析を通じて、モンゴルを取り巻くエスノスケープの全体像を明らかにする。
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