2020 Fiscal Year Annual Research Report
Archaeological research at Kom al-Diba', West Delta, Egypt
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17H04535
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
長谷川 奏 早稲田大学, 総合研究機構, 客員上級研究員(研究院客員教授) (80318831)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西本 真一 日本工業大学, 建築学部, 教授 (10198517)
西坂 朗子 東日本国際大学, エジプト考古学研究所, 客員教授 (30454193)
津村 宏臣 同志社大学, 文化情報学部, 准教授 (40376934)
津村 眞輝子 (財)古代オリエント博物館, 研究部, 研究員 (60238128)
惠多谷 雅弘 東海大学, 情報技術センター, 技術職員 (60398758)
近藤 二郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70186849)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | エジプト / 西方デルタ / イドゥク湖 / コーム・アル=ディバーゥ遺跡 / 砂丘集落 / 生活文化 / 複合経済 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、約10年間にわたってエジプトの西方デルタで行ってきた古環境の復元考察の成果を発展させた研究である。具体的には、地中海沿岸のイドゥク湖畔において、歴史時代の古環境を復元し、湖畔に形成された砂丘丘陵で営まれていた生活文化の復元を課題とする。具体的には、同湖畔内にあるコーム・アル=ディバーゥ遺跡の分析を通じて、当該地域で営まれていたと推測される複合経済の実態を考古学的な手法で実証的に検証することをめざす。本遺跡調査では、2018年度までに、当該の遺跡の存続年代(1~3世紀を中心としたヘレニズム時代)と、南側丘陵の頂部に建造されたナオスを核とする神殿周域住居のプラン概要が把握される成果を得てきたため、次段階として、発掘調査に進む計画が立案された。そこで、発掘調査に必要な環境整備を進めるために、遺物倉庫を仮置きするスペースの試掘が必要となったため、2019年度には約1/2域の試掘調査を行った。2020年度にはフィールドができなかったため、2021/10-11には、継続作業として、残り1/2域の試掘調査を完了させた。試掘調査のトレンチは、5mx5mのグリッド12区画分を対象とし、いずれも表層から2.0~2.5m程度までの掘り下げを行って層位堆積を確認した。その結果、深度1.7~2.0mから下には無遺物の砂層が厚く堆積していることが明らかになり、上層に位置する歴史時代のシルト層の構成のあり方も把握された。2020年度には、世界的にコロナ感染症の影響でフィールド調査自体は行えなかったが、代替の課題として、文献資料や民俗資料、画像解析資料等を援用した遺跡景観の復元研究を進めたことで、遺跡研究を複合的に進めることができた。これらの成果は、日本西アジア考古学会主催の発掘報告会やつくば大学主催の研究会での発表を通じて、意見交換が大きくはかられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、2017年度から西方デルタの遺跡テリトリーを復元する調査を順調に継続してきたが、2020年度には、世界的な感染症の影響でフィールド調査自体は行えなかった。そのために、これまでの成果のとりまとめを行い、「遺跡景観の復元研究」を進めたことによって、遺跡研究を複合的に進めることができた。これはこれまでの現地調査の中でも、特に、衛星画像調査(主にWorl View 2を用いた画像解析)と物理探査(主に電磁波探査)による研究成果をベースにしつつ、コーム・アル=ディバーゥ遺跡で行った考古学調査・建築遺構調査の成果に依拠するものである。同遺跡の南丘陵ではヘレニズム時代における神殿周域住居(Temple Precinct)の構成が読み取られた。遺跡の中核部分には神殿ナオスとそれを囲む周壁があり、そのまわりに、日乾煉瓦づくりの家屋・住居施設・広場・道路などと一体になる遺構の存在が判読された。また北丘陵では、ランドマーク的な建造物の存在が想起され、内湾面の導入部分と考えられた。そこで研究班は、当該遺跡の遺跡景観を復元すると共に、遺跡東方の砂丘堆積から、ラシード支流沿岸の氾濫域までを視野に入れた景観復元を行い、日本西アジア考古学会主催の発掘報告会やつくば大学主催の研究会での発表を通じて、成果を発信してきた。研究対象は古代の砂丘集落であるが、近代以降の開発により砂丘丘陵は大きく削平されて失われ、またデルタの湖沼地帯の氾濫景観自体も1960年代以降の上流地域におけるハイダム建設で決定的に失われていったために、このデルタ遺跡の景観復元の試みは、学術界に大きな関心を喚起したと思われる。したがって本調査は、予期しなかった感染症による中断はあったためにやや遅れを生じさせてはいるが、調査全体としては、当初の立案どおりおおむね順調に進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度には、感染症の世界的な広がりによって大きな影響を受け、フィールド調査自体は一時的な停滞を余儀なくされたが、調査成果をベースにした景観復元考察を進めたことで、概ね順調な進展をみせた。感染症の世界的な広がりはまだ予断を許さないために、2022年度に行う2021年度の繰り越し研究は、フィールド調査と景観復元考察を両輪として進める必要があろう。具体的には、フィールド調査では、試掘調査が2021/10-11に完了したために、出土遺物の仮置きを行う施設の導入も可能となったので、2022年度にはまずはそれを進めることとなる。これに加えて、発掘調査の開始に向けて、第2次の遺跡環境整備を考えたい。当該遺跡は地方都市の中でも地中海べりの河畔域という孤立した環境にあるため、遺跡アプローチ (舗装道路から小農道に変わる部分) の整備と遺跡の保護環境(遺跡破壊を防ぐための環境整備)の整備が課題となる。これらの作業は、現地の政府側を代表するブハイラ査察局と綿密な打ち合わせのもとに進めていくことになる。もう一方の景観復元考察に関しては、これまで、コーム・アル=ディバーウ遺跡周辺、およびその東方部分(ラシード支流までの間の地域)を完了したために、次段階には地中海沿岸部までの間にある遺跡北方の都市イドゥクの景観復元を課題とする。ここには、地中海沿岸部に特有な海岸砂丘が形成されていることが大きな特色となる。海岸砂丘とコーム・アル=ディバーウ遺跡がある内陸砂丘は、古代から現代に至るまで、ヒトやモノの移動において、相互的な関係を保ってきたと思われる。この点を、1930年代に記されたM. Zaitunによるイドゥク河畔の民俗誌を扱った著作やダマンフール大学文学部に所蔵されている地域史資料をひも解きながら、研究対象地域全体の考察を進めていく予定である。
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Research Products
(5 results)