2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17H04538
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
シン ジルト 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (00361858)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
波佐間 逸博 長崎大学, 多文化社会学部, 准教授 (20547997)
田村 うらら 金沢大学, 人間科学系, 准教授 (10580350)
地田 徹朗 名古屋外国語大学, 世界共生学部, 准教授 (10612012)
井上 岳彦 大阪教育大学, 教育学部, 講師 (60723202)
上村 明 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (90376830)
宮本 万里 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (60570984)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 牧畜 / エスニシティ / エコロジー / 集団観 / 共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、民族問題や地球環境問題は人類共通の課題となり、エスニシティやエコロジーをめぐる研究の重要性がこれまでになく高まっている。だが一般に、エスニシティは人間と人間の集団関係、エコロジーは人間と自然環境の関係にまつわるものであり、両者は互いに接点のない領域と思われがちである。 本研究においてメンバーたちは、地球上のいくつかの牧畜社会あるいは元牧畜社会を取り上げて、その内部における集団関係の在り方、特に牧畜という生業要素がいかに集団関係の形成に関与してきたかを分析する。そのことによって、牧畜社会の集団観の特徴、そこにみられるエスニシティとエコロジーの相関を解明し、多様な人間がいかにして共存可能かという議論に、ひとつの参照軸を提供することを目指していく。 2018年度において、メンバーたちは、チベット高原・モンゴル高原・ヒマラヤ地域・カザフ平原・南ロシア草原・西アジア・東アフリカに広がる牧畜諸社会においてフィールドワークと文献調査を実施した。具体的には、民族と親族の相関関係、家畜媒介性エスニシティの在り方、遊牧民文化の復活運動の動態、国家の強制農業集団化が牧畜社会に与える歴史的な影響、産業としての畜産拠点の形成と民族分布との相関関係、言語や宗教的に異なる牧畜民族集団同士の安定的な協力関係の生成メカニズム、屠畜と牧畜民性との動的な関連性について考察を深めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、2018年度の初めに、分担者田村が所属する金沢大学においては、科研メンバー全員参加による年度研究集会を開き、当年度における研究計画を視野に入れた研究発表を行った。外部講師として慶応義塾大学の佐川徹准教授を招聘し、科研メンバーの発表全体に対するコメントを行っていただき、さらに、佐川氏自身による研究発表も実施していただいた。 そして、政治情勢の変化に伴う調査方法の微調整などの個別ケースを除き、海外におけるフィールドワークや文献収集も順調に進んでいる。 さらに、前年度沖縄で開催された第23回生態人類学会研究大会において行った口頭発表をベースに、その内容のさらなる充実化と分析水準の一層深化をはかることで、生態人類学会の電子ジャーナル『生態人類学会ニューズレター』(2018年12月31日発行 http://ecoanth.main.jp/nl/24.pdf )においてそれぞれ活字化した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、2019年度研究集会を開き、各メンバーの研究発表を行い、異なる地域の事例を比較し、チーム内での議論を活性化させる。そして、本科研メンバーと異なるアプローチで牧畜民を研究する外部講師を招き講演してもらい、科研全体の視野を広げ、議論の精度を高めていく。それから、以下のように、各メンバーによる調査研究を進めていく。◎シンジルトは、中央アジア草原からチベット高原に移り住み、今やチベット民族になったモンゴル系諸部族で調査し、その集団意識における部族と民族の相関関係を解明する。◎波佐間は、「敵」を救済する民族間共存の一形態に注目して、エスニシティの境界を横断する認知構造を探究し、戦場の慈悲を支える集団観のあり方をケニアの事例で考察する。◎田村は、トルコの遊牧民ユルックの多層性とその下位集団の相互関係を明らかにするべく、遊牧民文化協会の活動を中心に調査し、その活動と牧畜業維持の関連を考察する。◎地田は、アラル海周辺地域での集団化の実態にスコープを定め、カザフの氏族社会がどのような変容を被ったかという点に着目し、文献調査を中心に研究する。◎井上は、ソ連時代カルムィク自治共和国再生事業において新たな畜産拠点として誕生したイキブルル地区における民族間関係がどのように形成されてきたのかを解明する。◎上村は、モンゴル国西部の牧畜におけるオリアンハイ人とカザフ人のエスニック境界を超える協力関係が構築される論理について研究を進める。◎宮本は、ブータンの北部国境防衛策と畜産局による高地民政策の関連を明らかにし、牧畜民が多い北部高地の生業の変化と民族意識の変容について研究を進める。
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