2017 Fiscal Year Annual Research Report
NATO and Humanitarian Intervention; Thought, Theory and Reality
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17H04544
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
福富 満久 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (90636557)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 軍事介入 / 人道的介入 / NATO / グローバル・ジャスティス / イラク / クルド / 法の支配 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、米国を含む北大西洋条約機構(NATO)加盟国が冷戦後の国際政治において紛争をどのように解決しようとしてきたのか、その背景にはどのような思想があり、論理があり、そして介入に際し現実はどうなったのか、についてこれまでNATO加盟国の中で人道的介入に積極的な役割を果たしてきた英国、フランス、米国を中心に明らかにすることである。 リビア内戦では国連安保理での議決を経て人道的介入がなされたが、シリア内戦に至っては、化学兵器が使用され人道的危機が懸念されているにもかかわらず、介入が見送られてきた。国連憲章が唱える国際法上の理想と現実には大きな乖離がある。なぜこのような乖離が生まれているのか。 その実態を探るために、2017年9月にイラクのクルド自治区に出張し、イラクが2003年に米国と英国に侵攻されたその影響について調査した。また自治区の独立を問う住民投票が行われたが、その選挙監視も同時に行った。イラクへの軍事介入の是非や正当性などについても多角的に調査した。また2018年3月に行ったシンガポールへの出張で、米国のアジアにおける覇権と安全保障について調査した。 またグローバル・ジャスティスの世界的権威であるオックスフォード大学のデイビッド・ミラー教授と2018年3月にオックスフォードで会うことができ、意見交換することができた。民主主義的伝統が国際連合の力の源泉である一方で、法の実行体として国連安保理常任理事国がどこまでその正当性を有しているのかについて、知見を深めることができた。 国連安保理の議決なしのNATOの軍事行動が果たしてどの程度人道的介入に理論的に耐えうるのか、同教授に研究協力を要請した。またフランスのパリ政治学院の国際関係論が専門のギヨーム・デュヴァン教授とも意見交換をすることができた。同様に研究協力を要請した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イラクに出張し、実質的に軍事介入された国家の現状を見ることができたこと、シンガポールに赴き米国の覇権と中国の台頭について知見を深めることができたこと、また、グローバル・ジャスティスの世界的権威であるオックスフォード大学のデイビッド・ミラー教授に会うことができ、かつ意見交換ができたことは本研究にとって極めて有意義であった。 また本研究の成果として2018年5月11日に東洋経済新報社から『戦火の欧州・中東関係史―収奪と報復の200年』を出版すること等から研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
プリンストン大学のジョン.アイケンベリー教授は、『リベラルな秩序か帝国か』で、本来米国はルールや制度から離れて行動するのではなく、ゆるやかな多国間主義的な秩序の中で行動を続ける3つの動機があると述べている。第一にグローバルな経済相互依存が増していき、多角的な政策の調整が拡大すること、第二に覇権には安定的な国際秩序が不可欠であるということ、そして第三に啓蒙的で共和主義・民主主義的伝統が米国社会の源泉であり、法の支配という伝統が他国間主義を志向するからである。 NATOの軍事行動が果たしてこれらに合致するのか、アメリカに行き、同教授に研究協力を要請し、同教授との議論を通じて米国の軍事介入の思想、論理、現実についての考察を深めていく予定である。 また、引き続きグローバル・ジャスティスの世界的権威であるオックスフォード大学のデイビッド・ミラー教授と連絡を密にして、共同の研究会などを行いたいと考えている。またその成果を英語で出版する。 加えてNATOは1995年のコソボ紛争で大規模な紛争において国連の安全保障理事会における議決なしに介入する実行体となり、この時の介入の正当性となる3つの要件として①甚だしい人命の損失がある②周辺地意識の安定・安全を確保する③平和的解決手段がついえている、ことを唱えたが、この3要件がシリア介入などで有効な視座となるのか引き続き検証する。
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Research Products
(7 results)