2017 Fiscal Year Annual Research Report
エネルギー転換期のドイツにおける原発立地地域の実証的研究
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17H04560
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
青木 聡子 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (80431485)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 環境社会学 / ライフヒストリー / 社会史 / 脱原発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、原子力発電所が閉鎖された立地地域の「その後」を検証することで、ドイツにおける脱原発の社会的受容をローカルレベルに焦点を絞って明らかにすることを目的としている。平成29年度はおもにドイツ国内の2自治体について調査研究をおこなった。 (1)一つは原発立地自治体ビブリスである。ビブリスでは1970年代から2基の原子炉が稼働していたものの、福島第一原発事故を受けたドイツ連邦政府の決定により、2011年3月に2基とも稼働を停止し、廃炉に向かうことになった。それ以降、当地では新たな産業の誘致や宅地造成が行政主導で進められており、「原発の町」からの生まれ変わりが図られている。こうした状況を受け、平成29年度はビブリス町内の各主体(ビブリス町長、原発事業者RWE広報担当者、住民)に聞き取り調査をおこなった。そこから明らかになったのは、①行政が進める企業誘致と宅地化はまさに今が正念場であるものの、住民のあいだでは多少なりとも行政のやり方に疑念(不安)がもたれていること、②原発事業者RWEは所定の手続きにのっとり住民とのリスクコミュニケーションを進めているが、住民の関心は原子炉解体の際のリスクよりも放射性廃棄物の長期貯蔵にあるということである。 (2)もう一つは1980年代後半に反対運動を展開し使用済み核燃料再処理施設を拒んだ自治体ヴァッカースドルフである。当該地域は、ビブリスなどの原発立地自治体との比較対照のために調査対象としている。原子力施設を拒んだ後にBMW社を中心とする自動車産業を誘致し、原子力施設に代わる財政基盤を確保することに成功した自治体として、その経緯や、そうしたプロセスが地域住民によっていかに経験されてきたのかについて聞き取り調査を進めている。 これらの調査の分析結果は、今後、日本社会学会や環境社会学会や日本ドイツ学会などで報告予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複数の調査対象地域のうち、本年度は2地域で調査をおこない、データを収集した。①聞き取り調査を中心とした定性的調査が当初の予定通り進んでいること、②各自治体の財政および雇用状況に関する統計資料の入手もおおむね当初の予定通りできていることから、「(2)おおむね順調に進展している」と評価する。課題を挙げるとすれば、②の統計資料の分析までは至っていないことである。今後、ドイツ国内の原発立地自治体の財政状況の推移のデータベースを作成し、原発停止がもたらす財政面および雇用面への影響について自治体・地域間での比較を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、統計資料の分析と定性的調査を進め、原発停止後の原発立地地域の人びとの生活状況や就業状況を明らかにする定量的調査にも取りかかる。 本年度おこなった聞き取り調査の結果、原発立地地域の展望を検証する際には2011年以降だけでなく原発稼働時、ひいては原発立地に至るまでの地域史や、それらが人びとによっていかに経験され記憶されてきたのかを明らかにする必要があるとの認識に至った。このため、当初の研究計画に加え、プレ原発期、原発期、脱原発期がいかに経験されてきたのかについてのライフヒストリー調査を中心とした定性的調査を重点的におこなう予定である。 平成29年度の調査で得られたデータを用いた論文を執筆中であり、それらは次年度以降公表される予定である。
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