2018 Fiscal Year Annual Research Report
「没落都市」の再生と景観保存―政策の移転可能性の日米比較
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17H04562
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
堀川 三郎 法政大学, 社会学部, 教授 (00272287)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 歴史的環境 / 保存運動 / 都市計画 / 都市再生 / 環境社会学 / 都市社会学 / 景観 / 日米比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
都市空間の変化は,どのような過程を経てコントロールされているのか。それは日本とアメリカでどのように異なるのか。これが本研究を主導する問いである。その問いに解答するため,日本では小樽運河保存運動を,アメリカではセントルイス市の再開発問題で生起した景観保存運動を取り上げて分析する。この2つの事例は,どちらも30年以上の長期にわたって保存論争が続いたもので,事例の中に問題の変化・変遷が凝縮されて現れている希有なものである。 2018年度の研究実績は,以下の通りである。 日本の小樽の事例については,今までの調査研究の中間報告として,2018年2月に単著『町並み保存運動の論理と帰結――小樽運河問題の社会学的分析』(東京大学出版会)を刊行し,いくつかの書評へのリプライを執筆した。本書は,なぜ小樽運河を残せと言ったのか(保存の論理),なぜ運河問題は10年近くも続いたのか(対立の構造),小樽の景観は「運河論争」を経てどのように変化したのか(景観変容の実態)の3点を,33年間の徹底的なフィールドワークで解明したものである。 セントルイスの事例に関しては先行研究が見当たらないことに鑑み,本研究は基礎的な事実関係の究明に重点を置いている。2018年度は現地調査を実施し,事例初期の展開過程を示す一次資料の複写を,ミズーリ歴史協会,ミズーリ州立歴史協会およびセントルイス景観協会の3ヶ所で行った。1960年代の歴史的事実自体がほとんど埋もれている現状を考えれば,運動参加者自身の手書き記事録や手紙類は,極めて資料価値が高い。そうした資料を4,000枚近く入手できたことが,2018年度の研究実績であるということができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度はアメリカ現地調査において貴重な一次資料を複写・入手することができた。現在はその整理を行い,基礎的な事実関係の解明のための文献解読作業を順次進めてきている。既存の研究がなく,まずは資料がどこに,どれだけあるのかという事項の探索からしなければいけない状況下では,このような地味で時間のかかる作業こそが大切である。こうした作業は,埋もれているが研究する価値のある事例を掘り起こしていくための,基礎的データベースを作成していると言っても過言ではない。しかし,今回複写(撮影)した資料群の多くは手書き議事録や手紙といったもので,その解読はなかなかに困難である。タイプライターで作成された文書であっても,多くは書簡のカーボンコピーで,経年劣化によって判読にはかなりの時間を要する。当初計画よりはやや遅れている状況である。 一方の国内事例である小樽については予定通りに現地調査を実施し,研究成果を公刊することができた(東京大学出版会,2018年)。現在はその成果を英語で世界に向けて発信すべく,研究成果の核心部分を英訳して欧州にて刊行する努力をしているところである。 このような状況であるため,当初計画よりもやや遅れているものの,おおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
第3年目の主要な課題は,昨年度同様,アメリカでの事例研究であり,ミズーリ州セントルイス市内の事例調査である。問題の初期,すなわち1960年代,セントルイス市中心部は,「旧郵便局舎」の保存で揺れ,市の世論は二分された。粘り強く闘った保存運動は旧郵便局舎の全面保存を勝ち取り,連邦所有物件の商業的利用を認めるという画期的な法律(通称「セントルイス法」〔Public Law 92-362〕,1972年)をも生み出した。この「セントルイス法」によって,その後のアメリカの公共建築の保存・再生への道筋が出来たと言っても過言ではない。にもかかわらず,管見の限り,先行研究は見当たらない。今年度も,昨年から進めているミズーリ州立歴史協会所有のアーカイヴスに眠る史料発掘を進め,その解読を急いでいく予定である。また,運動初期の展開に関する文書調査については,メリーランド州立大学,ハーバード大学,コロンビア大学等の図書館・アーカイブスも利用して分析を進める。 北海道小樽市での運河保存運動の事例研究・定点観測のフォローアップも行う。278棟の定点観測を継続して実施する予定であるが,これについては小樽の建築史,都市史の泰斗・駒木定正氏の助言を仰ぎながら進める予定である。英文書籍の刊行については,必要に応じてシアトル市在住の翻訳者との打ち合わせ会合も持ちながら,鋭意,進めていきたい。
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Research Products
(3 results)