2017 Fiscal Year Annual Research Report
北欧における社会生活に活きる初等中等教育の様相と効果に関する研究
Project/Area Number |
17H04568
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤村 宣之 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (20270861)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
寺川 志奈子 鳥取大学, 地域学部, 教授 (30249297)
渡邊 あや 津田塾大学, 学芸学部, 准教授 (60449105)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 教科教育学 / 比較教育学 / 発達心理学 / フィンランド / コンピテンス / 深い理解 / 教育課程基準 / 教科統合型学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,北欧における「社会生活に活きる教育」の様相と効果を,(1)理念的・政策的背景,(2)授業過程や教科書への具体化,(3)各児童・生徒への効果の点から明らかにする。 (1)理念的・政策的背景 フィンランドにおけるインタビュー調査と内容分析等により,汎用的コンピテンスの同定にあたっては,国際的議論を踏まえながらも,自らの教育文化に根ざしたあり方が検討されたこと,新教育課程基準の高邁な理想を評価しつつも,児童・生徒の自律的な学習を前提とするその枠組みが,動機づけの低い児童・生徒を学びから遠ざけ,児童・生徒間の格差を拡大する危険性があるという指摘が一部からなされていることなどが明らかになった。一方で,教科統合型学習が個に応じた指導やインクルーシブな教育と親和性が高いという指摘が,基礎学校,特別支援学校双方で聞かれた。 (2)授業過程や教科書の特質 フィンランドの小学校・中学校・高校,4校で新教育課程基準下の授業過程を観察した。教師の発問や児童・生徒の発話等の分析から,「深い理解」に関して,算数と図工など,教科を越えた学習内容の関連づけが,「汎用的コンピテンス」に関して,緩やかな協同過程を通じたアイディアの提案や共有,子どもの自律性を重視した多様な学習環境の設定などが見いだされた。また,実験学校の数学教科書の分析から,数学と自然・社会科学の内容がテーマのもとに統合されていることが明らかになった。 (3)児童・生徒に対する効果 「深い理解」等を測る記述型課題を開発し,フィンランドの小学校3, 5年生に集団調査を試行的に実施した結果,小学生の思考プロセスに個人間の多様性と課題文脈に応じた柔軟性がみられることが示唆された。また,高校3年生に対する面接調査の結果,他者との協同過程に対して,自分とは異なる考えを知ることや異なる考えを比較することに意義を見いだしていることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初に予定していた,①フィンランドにおける理念的・政策的背景についてのインタビュー調査,②新教育課程基準のもとでの授業過程の観察,教科書の分析,③記述型課題の開発による集団調査の試行に加えて,特別支援学校における聞き取り調査や,高校生に対する試行的な面接調査も実施することができ,フィンランドの「社会生活に活きる教育」の様相と効果についての多面的な検討が進んでいるため。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究の進展を生かして,①フィンランドの教育の理念的・政策的背景については,国際的議論や北欧レベルでの議論との関連や,他の北欧諸国の目標との比較でどのような特徴を持つのかなどについて発展的な検討を行う。次に,②授業過程の観察や教科書の分析については,当該授業を実施した教師への面接調査なども加えて詳細な検討を行う。さらに,③児童・生徒に対する記述型課題の実施による効果の検証については,実施地域・実施校を拡大するとともに,「汎用的コンピテンス」や「深い理解」に関する新たな課題を開発・実施して検討を行う。以上を通じて,北欧の初等中等教育における「社会生活に活きる教育」の様相と効果について,多面的かつ体系的に研究を推進する。
|