2018 Fiscal Year Annual Research Report
東アジア都市の住宅地形成と集合住宅に関する学術調査
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17H04597
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
高村 雅彦 法政大学, デザイン工学部, 教授 (80343614)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
包 慕萍 東京大学, 生産技術研究所, 協力研究員 (40536827)
高道 昌志 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 助教 (40793352)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 中国 / 集合住宅 / 近現代 / 大連 / 北京 / 上海 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国における都市史・建築史は、これまで伝統都市や近代都市の都市計画史ならびに単体の建物や象徴的な施設を中心に調査研究がなされてきた。しかしながら、それらとは異なる中国建国直後の、いわゆる近現代期に形成された住宅地とそこに立地する集合住宅が研究の対象となることはまれで、その実態や形成の過程を知ることなく、いま多くが消失の危機にある。これらを現地調査し、まず空間の実態を記録して、その後の研究の資に供することが急務になっている。 そこで、第一年度にあたる平成29年度の大連、北京に続いて、第二年度の平成30年度も取り壊しの危険性が高く、緊急性が求められる上海の集合住宅を対象にフィールドワーク調査を実施した。具体的には、曹楊新村、閘電新村、呉涇二村を対象として、実測を含めた聞き取り調査、文献資料の考察を行った。 上海では、戦前から発達した住宅建設によって、街区・集合住宅の発展段階を次の三つに分けることができた。①産業模範都市の時期、②ソ連の影響を受けた時期、③自立時期。北京の街区の配置と形態が全面的にソ連を模倣していたのに対し、上海は労働者に住みやすい住環境を与えるために多様なケースを生み出した。とくに、行列式の開放的な公共空間と緑豊かなコミュニケーションを可能とする環境が整えられている。街区の並木道とグリーンベルトを必ず計画し、グリッド状の道路網にメイン道路とサブ道路を明確に分ける手法が採用されている。煉瓦・RC混構造の試み、片廊下型の普及、工業優先戦略といった特徴の華北とは異なり、上海の住宅地と住宅は、その計画・間取り・構造においてより先進的なものとして位置づけることができる。戦前の工業地域を萌芽とする上海の集合住宅地は、華北都市の生産性向上をベースとしたものよりも利便性が高く、身体的・精神的に良好な環境が重視されていることを現地調査によって明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、第一年度の北京と大連の調査に続いて、第二年度は上海の現地調査を実施し、多大な成果を得た。華北から華東へ視野を広げたことになる。 第一年度目の成果は国内2回、国外1回の学会において発表したものの、まだ正式な論文としての提出がなされていないため、今年度にそれを実現しなければならない。加えて、中国建国以前の、いわゆる近代に建設された集合住宅については、文化財としての著名な建築以外は大部分が消失していることから、本研究の対象を1950年代から60年代中期までの建国直後に絞ることとした。また、今年度対象となる香港、広州の事前調査をすでに第二年度中に終えている。 本研究は、中国建国直後における集合住宅の住宅地形成と住宅の空間構成を対象とするものだが、これまでの華北と華東の現地調査を通じて、材料や構法、デザインに関しても考察を深めなければならないことが明らかになった。つまり、広大な中国にあって、個々の集合住宅に明確な違いを見出すことができ、その地域の伝統的な住宅のあり方、近代建築の受容のしかた、政治との距離感など、それを生み出した背景や影響が様々考えられるものの、その点についてまだ明確な回答を出せていない。今後、この点を明らかにすることを念頭に置きながら、異なる地域の調査研究が必要になる。
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Strategy for Future Research Activity |
第二年度における事前調査で、香港では、中国建国直後の集合住宅の多くがすでに取り壊され、一部を文化財として保存しており、調査研究の緊急性が見出せなかったことを確認している。しかしながら、広州にあっては、早急な調査が求められていることを確認したため、今年度中に詳細な現地調査を実施しなければならない。 今年度は、同じく取り壊しの危険性が高い広州北部の1950年代から60年代に建設された住宅地がフィールド調査の主な対象となる。当初、今年度の第三年度までに、テーマ1の国外の影響を受けて形成された近代の住宅地と集合住宅を集中的に調査し、次の第四年度・第五年度は、テーマ2の中国建国直後に計画され建設された住宅地と集合住宅の現地調査が主な研究計画であった。だが、第一年度・第二年度の研究を通じて、1950年代から60年代中期の中国建国直後の集合住宅を主な対象とすることの必要性を強く感じ、すでに研究全体の視点はテーマ2のほうにシフトしている。この時期を対象とする都市史・建築史の研究はきわめて少なく、フィールド調査による資料づくりは、今後の研究の発展に大きく寄与できるものと確信している。
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