2019 Fiscal Year Annual Research Report
東アジア都市の住宅地形成と集合住宅に関する学術調査
Project/Area Number |
17H04597
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
高村 雅彦 法政大学, デザイン工学部, 教授 (80343614)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
包 慕萍 東京大学, 生産技術研究所, 協力研究員 (40536827)
高道 昌志 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 助教 (40793352)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 中国 / 集合住宅 / 近現代 / 広州 / 近隣住区論 / 周辺式 / 行列式 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1949年の新中国設立直後のいわゆる近現代期に形成された住宅地とそこに立地する集合住宅が対象である。この時期の集合住宅は、その実態や形成の過程が明らかにされることなく、いま多くが消失の危機にある。これらを現地調査し、まず空間の実態を記録して、その後の研究の基礎資料となることが目的である。 大連、北京、上海に続いて、3年目の令和元年度は当初の計画通り広州の集合住宅について現地調査をおこなった。 広州は上海に遅れて、1929年から国民党による様々な産業・インフラ・交通の整備などの一連の政策を通じ、近代産業の基盤を構築した。その後、新中国設立以降は、新しい工場地を整備するより、むしろその前の中華民国期の工場を活用したほうが合理的であるとされ、集合住宅群はその周囲に計画、建設された。とくに、港湾都市である広州では造船業と漁業が発達したことにより、その工場労働者や漁民の住宅地が少なくない。一方、広州は古くから東南アジア諸国との貿易で栄え、マレーシアやインドネシアに移住した中国人も多く、新中国設立後は帰国したそれら華僑の住宅不足を解消するため、集合住宅地が計画される。一般の労働者向けの集合住宅と違って、海外生活を経験し富を蓄積した華僑らの住宅群はきわめて質の高いものであった。 これまでの事例と同様、近隣住区論を基盤とする広州の集合住宅地には、周辺式より行列式の配置が圧倒的に多い。通風を確保し、湿気を避け、温度の上昇を抑える広州ならではの合理的な配置といえる。広州の住宅地計画は、当時のソ連の影響が少なからず見られるものの、他の都市のケースとは違って、地形と気候を重視する設計手法がもっとも顕著な特徴といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一年度の大連と北京、第二年度の上海に続いて、第三年度の広州といったように、当初の計画通りに、いずれも取り壊しの危険性が高い集合住宅を対象に実測を含めたフィールドワーク調査を実施することができた。 その過程で、①産業模範都市の時期、②ソ連の影響を受けた時期、③自立時期の三つに時期を区分できることが明らかになりつつある。また、上海を経て広州を対象としたことにより、華北都市の生産性向上をベースとしたものよりも華中・華南は利便性が高く、身体的・精神的に良好な住環境が重視され、個々の気候にも対応させようとした意図を見いだしつつある。 本研究は、集合住宅における街区の立地と空間構成を考察することで、新中国設立直後の建築思想までをも明らかにしようとしている。まず、街区道路、住棟配置、緑地分布などの街区計画のマクロ的な面から、当初計画の意図を把握していく。その後、集合住宅の間取り、施工技術、利用状況などミクロ的な変化から住民の生活や住空間の特徴を分析する。その背景に存在するソ連の影響のみならず、それ以前の日本や英国などの特質の継続、また個々の場所の気候や地形との関係に着目するこうした研究の方法は、今後も一貫して用いることとする。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、新型肺炎の影響により現地調査が予定通り進まない可能性がある。だが、可能となった場合には、取り壊しの情報があった長春にある工場の周囲に付属する1960年ころの幹部及び労働者向けの集合住宅について緊急の調査を実施したい。また、香港の事前調査によって、イギリスの支配のもと、集合住宅の計画は新中国設立後の中国大陸ときわめて異なると推察され、その具体的な違いを現地調査によって明らかにしたい。 ただし、これらは現地調査が可能な場合の推進方策であり、もしかなわなかった場合には計画や建設に関わる文献資料の調査に切り替える予定である。これらの資料は一般的に非公開であることから、どの程度まで収集できるか不明ではあるが、まずは日本国内での資料調査、可能であれば現地において档案館や各地の図書館などで調査を進めていきたい。
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