2017 Fiscal Year Annual Research Report
Clarification of Negative Impact of Peacock Bass on Ecosystem in Thailand and its Counterplan
Project/Area Number |
17H04601
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岩田 明久 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (20303878)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 生物資源保全 / 生物多様性 / 外来生物 / ピーコックバス / タイ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、近年、タイの淡水域で、侵略性の高い外来魚種‘ピーコックバス’が定着し、在来水域生態系の生態系が崩れ、豊かであった生物多様性が失わる可能性が生じているため、従来の方法に併せて窒素・窒素安定同位体分析の手法を用いて、本種の摂餌・繁殖生態、定着の程度と在来水域生態系の構造の変化を調査・解明し、その侵略的強度を評価し、また、本種の定着が地域住民社会に与える影響を明らかにするため、その侵入来歴や、地域住民の淡水魚全般に対する意識・知識・利用方法等の変化に関する調査を行い、これらの情報を総合し、科学的知見に基づく具体的対応策を策定し研究成果を政策提言としてタイ政府の関係機関に提出することで、当該国・地域の在来水域生態系における生物多様性の保全と持続的利用に貢献することである。 平成29年度は共同研究者のタイカセサート大学のプラチヤー ムシカシントーンを招へいし、2017年7月26日、研究代表者、連携研究者を含め、約10名の参加のもと、国際ワークショップ「タイにおけるピーコックバスを中心とした外来魚の現状と対策」を開催し、本研究の趣旨・実施体制の確認、実施調査の具体策等を協議した。現地調査は、アクセスの利便性と調査効率からラヨーンを選出した。 第一回現地調査は2017年8月28-9月2日まで、研究代表者岩田、連携研究者竹門・奥田、共同研究者プラチヤー、研究補助院生友尻が参加して、上記の目的に沿って調査を遂行し、得られた標本をカセサート大で安定同位体分析用に処理を行った。 第二回現地調査は2018年2月22―26日まで、研究代表者岩田、連携研究者竹門・古澤、共同研究者プラチヤー、研究補助院生友尻・古元が参加して、前回と同様に上記の目的に沿って調査を遂行し、得られた標本をカセサート大で安定同位体分析用に処理を行った。 岩田・竹門が第一回現地調査で得られた標本の胃内容物解析を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラヨーンの調査地においては、上流部にピーコックバスが定着していない自然度が高い湿地、下流部にピーコックバスが定着している貯水池、さらに、その二箇所を連続して流れピーコックバスの確認例が僅かにある水路の、それぞれピーコックバスの存在条件の異なる環境が3ヶ所あることが分かり、ピーコックバスの定着の程度と在来水域生態系の構造の変化を解明するための条件が極めて良好な場所であることが分かった。 第1回、第2回の現地調査では、ピーコックバスと当該水域生態系の栄養段階における最高位に位置するChanna (ライギョ類)複数種を含む在来魚を多数採集することができた。これにより、ピーコックバスと在来魚の食性、ピーコックバスの生殖腺の成熟度合いなどの生態的知見を解明するデータが得られる準備が可能になったと同時にベントスの採集も進み、窒素・窒素安定同位体分析の手法を用いて在来水域生態系の構造の変化を総合的に解明する標本が得られ、カセサート大学でこの分析のためのサンプル処理も順調に行われた。 本種の定着が地域住民社会に与える影響を明らかにするための、侵入来歴や地域住民の淡水魚全般に対する意識・知識・利用方法等の変化を明らかにする聞き取り調査も行うことができ、研究補助院生古元の選考調査の内容と合わせて、これらに関する情報も蓄積することができた。 以上の事柄を総合的に判断すると、初年度において、本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は現地調査をラヨーン一地点に絞った。タイでピーコックバスの定着が確認されている場所はこの地点以外にペッチャブリーがある。さらに、放流情報のある所としてチェンマイ、カンチャナブリー、ラチャブリーが挙げられる。今後、ラヨーン以外のどの地点をいつ、いかにして現地調査するかは平成30年度に本研究に関わる関係者のもとにワークショップを開催して論議する。 平成29年度の二回にわたる現地調査でほぼ予定どおりの標本が得られた。平成30年度以降、本種と当該水域生態系の栄養段階における最高位に位置するChanna複数種を含む在来魚の食性、本種の生殖腺の成熟度合いなど、生態的知見に関係する情報を得るため、さらに体長組成、胃内容物や生殖腺重量などのデータを収集して、本種の摂餌・繁殖生態、定着の程度と在来魚の関係に関する情報を収集する。同時に、平成29年度に、在来水域生態系の構造の変化を解明するための窒素・窒素安定同位体分析用サンプルを、平成30年度から連携研究者奥田の所属する総合地球環境学研究所の機器を用いて分析を開始し、侵略的強度評価の信頼性の深化を図る。 本種の定着が地域住民社会に与える影響を明らかにするための、侵入来歴や地域住民の淡水魚全般に対する意識・知識・利用方法等の変化を明らかにする聞き取り調査などは平成30年度も継続して行うこととする。 本研究の最終目的は自然科学的手法と社会科学的手法の双方から本種が在来生態系に与える影響の評価を行い、研究者の提言と地域住民の意識との間に生じる乖離を回避し、具体的対応策を提言してタイ政府の関係機関に提出することで当該国・地域の在来水域生態系における生物多様性の保全と持続的利用に貢献することにある。この点を実現すべく、タイの自然資源環境省及び農業省へコンタクトするルートの検討を進める。
|