2018 Fiscal Year Annual Research Report
脅威が創出する多様性:ロシアとベトナムに見る進化爆発
Project/Area Number |
17H04611
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
千葉 聡 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (10236812)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 放散 / 東北アジア / 種分化 / 生物地理 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の石灰岩地の陸産貝類の調査及び研究に加えて、淡水性貝類の調査を行った。特に、ヒラマキガイ類とタニシ類の調査を行い、中国南部からベトナム、さらにそれより以西の地域にかけて、著しい多様化が生じていることが示された。分子遺伝学的な解析と系統解析の結果から、これらベトナムを中心とした淡水貝類の起源は、東アジアとは異なる起源をもっており、本地域で放散したものと考えられた。 前年度に引き続き、ベトナム北部の石灰岩地帯での陸貝調査を行った。その結果、ヤマタニシ類やベッコウマイマイのグループで著しい多様性が認められたほか、捕食者回避と関係すると思われる特異な行動が見出された。これらはネジレガイなどの捕食者との共進化的な多様化の結果であると考えられた。実験の結果、特に一部の種は足部を活発に動かすことによって、捕食者の攻撃を回避していた。これらの事例は、捕食者による攻撃が殻の多様性だけでなく、殻の消失や活動性など幅広い形質の多様性をもたらすことを示しており、本地域のモノアラガイやベッコウマイマイの殻の消失と調和的である。。 極東ロシアにおいて陸産貝類と淡水貝類の調査を行い、分子系統解析によって他の地域のグループとの比較を行った。その結果、極東ロシアのキバサナギガイ類から八丈島のハチジョウキバサナギが由来していることが示されるなど、大陸から島嶼部への長距離分散が生じており、それが東北アジア地域の本グループの多様化に寄与したと考えられた。淡水貝類ではヒラマキガイ類が本地域で放散したのち、繰り返し日本列島への侵入が起きたことが示された。ミズシタダミ類は本地域が多様性の世界的な中心地になっていると考えられ、特にバイカルで顕著な多様化が生じていた。さらに二枚貝類にも対象を広げて、本地域における多様化のプロセスを究明している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベトナムおよびロシアの調査によって、陸産および淡水貝類相の実体を明らかにしようという研究計画は、ほぼ計画通り達成できており、北部の石灰岩地帯やメコン流域でこれらに著しく高い多様性を見出すことができ、またその由来を分子系統解析によって推定することができた点などは、想定通りの成果である。この多様性が捕食者によるという仮説は、今のところ厳密な検証には至っていないが、それを示す状況証拠はそろいつつある。 前年政治的な状況から調査を行うことができなかった極東ロシアにて、本年度は広範な野外調査を行うことができたため、その陸産、淡水生貝類の状況把握と系統推定が進展した。その結果、本地域が多様化の中心であることが示されるなど、予想通りの成果が得られている。また日本の資料との比較と分子系統推定から、本地域を起源として日本の淡水貝類相の多くが形成されていることが示された点は、想定していなかった成果であり、本研究の大きな成果の一つである。特に極東ロシアから日本列島の本土を飛び越えて、太平洋の海洋島に長距離分散が生じていることが示された点は、従来の生物地理学的な想定を超えた発見であり、重要な副産物としての成果が得られたと考える。 捕食者の多様化に対する効果についても、予想を支持する新しい成果が得られている。陸産貝類では、捕食者への適応により逆に殻が失われる方向への進化が駆動される可能性が示されたことは新しい発見である。またタニシなどの淡水貝類では、魚類の捕食の効果が新たに示唆された。ただし、捕食者の効果を実験的に検出することは、本年度は現地の状況のためにまだ十分に行うことができておらず、今後の課題である。このようにまだ不十分な点はあるものの、想定していなかった新しい結果も得られており、全体として順調に進んでいると結論できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
ベトナムにおいては、これまで成果を得てきた進化史の研究をさらに進め、陸産、淡水貝類で、これらの地域の多様化パターンを解明し、他の地域との比較研究を進める。本年度はRAD-seqやMig-seqのゲノムワイドな遺伝子解析の技術を駆使した集団解析や系統解析を行って成果を得ることができたため、今後残りの資料について、この解析を進めることで、より詳細な多様化が起きた時期の推定や、そのダイナミクスの推定などを行っていく。 捕食者と陸産および淡水産貝類の進化的関係について、室内実験を中心に研究を進める。現地での実験が予想より困難で障害が大きいことからから、日本国内で代理となる材料を用いて、実験を行うことを検討している。これまでに行った形態解析で、どのような形質がこの比較に重要かは推定できているため、国内での類似の材料を使った実験で十分可能であると考えている。 特に極東ロシア地域については、さらに野外調査と試料収集を進めて陸貝および淡水貝類の多様性の実体把握と系統推定に努める。本年度の研究により、日本の貝類群集との強い関係が示され、さらに長距離分散が起きていたことが示されたことから、日本の資料との比較も進めていく。これによって、日本の生物相の起源が、本地域で起きた貝類の顕著な放散、遺伝的多様化と密接に関係していることが示されると期待できる。これは事前には期待していなかった重要な成果になると考えている。 以上の研究によって得られた成果は、順次論文として公表し、評価を仰ぐ予定である。
|
Research Products
(7 results)
-
-
-
[Journal Article] Molecular phylogeny of glacial relict species: a case of freshwater Valvatidae molluscs (Mollusca: Gastropoda) in North and East Asia.2018
Author(s)
Saito, T., Prozorova, L., Sitnikova, T., Surenkhorloo, P., Hirano, T., Morii,Y., & Chiba, S.
-
Journal Title
Hydrobiologia
Volume: 818
Pages: 105-118
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
-
-
-
[Journal Article] Phylogeography of freshwater planorbid snails reveals diversification patterns in Eurasian continental islands.2018
Author(s)
Saito, T., Hirano, T., Prozorova, L. A., Do Van Tu, Sulikowska-Drozd, A., Sitnikova, T., Surenkhorloo, P., Yamazaki, D., Morii, Y., Kameda, Y., Fukuda, H., & Chiba, S.
-
Journal Title
BMC Evolutionary Biology
Volume: 18
Pages: 164
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
-