2018 Fiscal Year Annual Research Report
外洋性魚類・鯨類を指標とした北西太平洋における水銀安定同位体比の三次元分布解析
Project/Area Number |
17H04712
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
板井 啓明 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (60554467)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 水銀安定同位体比 / MC-ICP-MS / カツオ / 鯨類 / 北太平洋 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、S1(北西太平洋の魚類中水銀安定同位体比の分析)と、S2(鯨類の代謝にともなう安定同位体比分別の評価)を計画していた。S1に関しては、愛媛大学の試料を活用し、カツオ77検体、ビンナガマグロ20検体について筋肉中水銀安定同位体比のデータを得ることができた。その結果、光還元の程度を示す非質量依存同位体効果(MIF)が、同一魚種でも地域によって大きな差を示すことが明らかになった。具体的には、黒潮-親潮混合域付近のカツオと、黒潮域のカツオでは、前者の方が摂餌深度が浅いことが示された。これは、水銀安定同位体比が生態学トレーサーとしてユニークな指標となりうることを示す結果であった。また、質量依存同位体分別 (MDF) とMIFを併せて解析すると、水銀のソースが親潮域と黒潮域で異なる可能性も示唆された。これは、北西太平洋の水銀動態を考察するうえで重要な知見である。 鯨類試料については、年齢別のスジイルカ10検体について、脳・肝臓・筋肉中の水銀安定同位体比および無機水銀/総水銀を計測し、成長とともに無機水銀が各組織に蓄積するという従来知見を確認するとともに、脱メチル化にともなう安定同位体分別の存在が示唆された。若年齢の個体は代謝による同位体分別をよく反映し、高年齢の個体ほど、経年的に蓄積した同位体シグナルを記録することが示された。 これらの成果の一部と前年度の成果について、和文総説一報を報告した。学会発表は国内学会主催の会議で3件を報告し、うち一件は招待講演であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
29年度は研究機関の移籍後の基盤整備によりやや進捗が遅れていたが、大学院生の加入により分析データを堅実に得られる体制が整った。外洋性魚類の分析および鯨類の分析についても、論文化に十分な数のデータが得られた。S1で分析した試料数は当初予定に満たないが、必要な結論を得るには十分である。一方で、鯨類のデータについては想定以上に興味深い結果が得られたため、おおむね順調と自己評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
ほぼ順調に進行しているため、今年度はS2(鯨類の代謝に伴う同位体分別の評価)とS3(食物連鎖にともなう水銀安定同位体比の変化)を実施し、データ産生を完了する。また、前年度に実施された課題を国際紙に投稿する。
|