2019 Fiscal Year Annual Research Report
外洋性魚類・鯨類を指標とした北西太平洋における水銀安定同位体比の三次元分布解析
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17H04712
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
板井 啓明 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (60554467)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 水銀安定同位体比 / 海棲哺乳類 / 北西太平洋 / 代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、研究計画の三年目で、これまでに北西太平洋各地のカツオ・ビンナガマグロ、各種鯨類について、その水銀同位体比の計測を実施してきた。昨年度の研究計画は、高次生物中の代謝における水銀安定同位体比分析が重要課題であった。これについて、年齢別スジイルカの臓器別水銀安定同位体比を分析し、以下の結果を得た。 ・筋肉、脳中水銀安定同位体比は、年齢が上昇するほど低下する傾向が認められた。両者の間には1‰程度のオフセットが存在し、脳の方が高値を示した。 ・肝臓中の水銀安定同位体比は、年齢が上昇するほど上昇する傾向を示した。 ・化学形態に着目すると、肝臓の水銀は無機化が進んでおり、既存の知見と同様、セレンとの鉱物や複合体を作って蓄積していると考えられる。一方で、脳中の水銀も無機化やセレンとの複合体形成が認められるが、血液脳関門を突破する段階では有機体だったと考えられる。筋肉と脳の水銀安定同位体比は、肝臓での代謝過程における水銀安定同位体比分別により、有機体に軽い同位体が濃集した結果として、対照的な経年変化を示したと考えらえる。この分別の方向性は、ヒトの尿や毛髪の分析などで見られた結果とも調和的である。質量非依存分別の指標であるΔ199Hgについては、肝臓についてゆるやかな年齢依存的減少傾向を示したが、その程度は0.1‰程度であり、昨年の成果で認められた北西太平洋内での地域変動を比較すると小さな変化であった。すなわち、代謝データの年齢依存的変化を考慮する上で、摂餌嗜好などを考慮する必要は小さい。 本年度の研究結果は、高次生物での水銀代謝と滞留時間を考えるうえで貴重な知見と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水銀安定同位体比の三次元マッピングについては、サメのデータ追加を予定していたが、これは年度内では間に合わなかった。一方で、鯨類の代謝に関わる同位体比分析に関しては順調にデータが得られ、非常にクリアな年齢依存的変化が得られた。X線吸収分光法を用いた形態分析についても順調にデータが得られ、化学形態と同位体比に関する知見が整理されたことは、本年度の大きな成果であり、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られたデータとして、(1)北西太平洋各地の魚類における水銀安定同位体比地域変動、(2)同地域鯨類における水銀安定同位体比の時間変動、(3)鯨類の代謝過程における水銀安定同位体比分別、に関して新知見を得ることができた。(1)については、論文投稿段階にある。(2)、(3)について、成果をまとめることが最終年度の必須課題であり、必要に応じて追加データを取得する。
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Research Products
(4 results)