2018 Fiscal Year Annual Research Report
金門島を核とする移民集落の越境的空間特性と住文化の重層性
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17H04723
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Research Institution | Kobe Design University |
Principal Investigator |
長野 真紀 神戸芸術工科大学, 芸術工学研究科, 助教 (10549679)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 金門島 / 越境 / 住文化 / 華人居住地 / 南洋 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の調査から明らかになった金門島の伝統的集落(143集落)を対象に、居住者の主要姓氏と彼らの出身地および島内・島外への再移住先について確認を進めた。また、戒厳令解除直後の1990年代前半に行われた調査資料から、清代に形成された伝統的集落の空間構成把握にも努めた。さらに、これまでの調査で明らかになった伝統的集落の類型化を行い、①建物の保存状態がよく、②集落構造の大きな改変が行われておらず、③観光地化が進んでいない14集落に対象を絞り、現地にて集落全体の空間構造、住居配置、住居入口、方位軸、道および写真による記録を行った。その結果、金門島西北の金寧郷に位置する古寧頭集落をミン南様式の伝統的集落構造が現存する典型事例集落に選定し、悉皆調査を行った。四合院の実測および現在の生活環境、室内空間の使い方に関するヒアリングを進め、コミュニティ空間や水場の分布など、個と全体の関係性について調査した。また、中国大陸から金門島、金門島から澎湖諸島への歴史的な移住経緯があり、空間変遷の流れを理解するために、澎湖島の居住環境およびミン南伝統建築の空間構成についても現地で確認を行った。 前年度に引き続き研究協力者の協力を得て、マレーシアのマラッカおよびペナンでも現地調査を行った。マラッカのユネスコ世界文化遺産地区を対象に、建物配置、建物用途変更による街区空間の変遷、ファサードデザインと階層、内部プランの実測調査を行い、植民地時代の宗主国と中国・ミン南様式を融合した建物の空間構造、ファサードデザインの特性、景観の連続性について理解を深めた。また、華人とマレー人の間に誕生したPeranakanの伝統的デザインについても調査を進め、彼らの生活習慣や伝統的シンボルが持つ意味についても現地で確認を行った。本調査内容は、2018年10月の芸術工学会秋期大会にて成果発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は台湾金門島、シンガポール、マレーシアにて現地調査を行い、金門島の居住環境を持続・発展させている空間要素と、移住によって新しく形成された南洋地域の居住空間の特性に焦点を当て、研究を遂行した。 2年目は金門島、マレーシアにて現地調査を行い、プラナカンと南洋華人の多様な「暮らし方」について理解を深めた。金門島については、集落分布図および現況写真をまとめデータベース化する作業を継続して進めてきた。並行して集落構造の類型化を行い、その中から詳細調査を実施する場所を選定し、現地での実測・聞取りを行った。また、南洋に移住した祖先が帰国後に建造した洋楼にも着目しながら、ファサードデザイン、内部プラン、空間の使われ方など、四合院建築との比較も進めている。金門島の伝統的建築に関する研究・設計を行っている建築家や大学教員とも意見交換し、本研究の位置づけや今後の方向性について確認した。 移民送出の地(母村)となった金門島の居住環境と暮らしを核として、新たな移住先で環境や習慣をどのように継承・変容させながら新しい居住環境を構築していったのか明らかにするため、歴史的な人の移動、居住空間の変遷、現地の生活文化について調査を継続している。具体的には、金門島の①四合院建築、②洋楼、マレー半島の③マレー住居、④shop house、⑤カンポン、⑥jettyの6種類の住居を比較・分類し、空間の変遷について分析を進めている。シンガポールの調査では、研究協力者の協力を得ながら、移住当初の家主、出身地、当時の住居プランについて資料を収集し、分析を進めている。また、マレー人の住まいを理解するためにカンポンでの暮らし方や建築様式についても、現地で確認した。 2年間の研究はおおむね順調に進んでおり、最終年度となる次年度には、これまでの成果をまとめ学会で発表していく。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、以下の3つの項目について3年間の研究総括をしながらすすめていく。 1)シンガポールのBlair Plain地区を対象に、中華系移民の住居と移住の歴史について調査を行う。時代とともに細部が変化してきているため、原型を把握しておく必要がある。そこで、現存する住居の実測調査と、都市開発庁の資料および当時の図面から空間の変容過程を捉えていく。さらに、ファサード写真、建築年代、建築面積、初期居住者と出身地等についても調査を継続する。また、新加坡宗郷会館聯合総会を訪問し、調査対象地区に関する歴史的資料について情報を収集する。これまで研究協力者が蓄積してきた2年間の調査資料をもとに、保全地区の建築に関するデザインマネジメントを整理し、シンガポールにおける中華系移民の住居のデザイン特性をまとめる。 2)ペナンの世界遺産保存地区に位置する中華系移民の住居調査を展開し、両地域の空間比較を行う。前年度調査したマラッカは400年以上にわたり西洋列強国に支配され、独自の文化を形成してきた。一方ペナンは、1700年代後半にイギリスの植民地として割譲された歴史を持つ。華人系の多くはイギリス植民地時代の移住者であるが、当地マレーシア、植民地イギリス、故郷中国の文化をどのように居住空間に反映させてきたのか、典型事例となる代表的住居を実測しながらまとめていく。 3)前年度からの継続作業として、金門島の衛星画像図を用いた居住環境の把握を行い、集落のデータベース化を進めていく。また、前年度に実施した典型事例集落の悉皆調査のまとめを行い、不足箇所の補足調査を実施する。その際、南洋からの帰郷者が現地の建築を参考に建てた洋楼の実測と補足の文献調査を行う。 研究成果は学会にて発表し、研究者からの専門的な批評を得ながら、今後の研究へと展開させていく。
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Research Products
(2 results)