2019 Fiscal Year Annual Research Report
Development of cell nuclear nanotransporters for fabrication of nuclear-targeting drug delivery system
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17H04744
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
長濱 宏治 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 准教授 (00551847)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ナノゲル / 副作用軽減 / がん治療 / 細胞核 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、Dextranの側鎖にフェニルアラニンエチルエステルを結合した両親媒性分子を合成し、疎水性相互作用により自己組織化させることで核移行性ナノゲルを作製した。このDexPheナノゲルをエレクトロポレーションにより細胞質に導入すると、速やかに核内に移行する。最近、核内に移行したナノゲルが自発的に核外(細胞質や細胞外)へと移行する現象を発見した。そこで、インポーチン模倣ナノゲルは、核外輸送タンパク質であるエクスポーチンの機能も模倣しているのではないかと仮説を立て、本年度はこのナノゲルの核内移行、核内滞留性、核外移行、ナノゲルによる核内物質の核外輸送について調べた。 ヒト筋衛星細胞に導入したFITC標識ナノゲルは、15分後には核内に移行し、その後2時間後まで徐々に核内蛍光強度が低下したことより、核膜孔を突破して細胞質に移行する能力があることが示された。そこで次に、ナノゲルによる核内に蓄積した抗がん剤ドキソルビシン(DOX)の核外排出について調べた。DOXを核内蓄積させた筋衛星細胞に対して、FITC-標識ナノゲルを導入し、所定時間後に共焦点顕微鏡観察により解析した結果、DOXのみの場合と比べて、ナノゲルが存在する場合、DOXの核外排除率は15分後から長時間高い排除率を維持した。これより、ナノゲルは核内に移行した後、核内でDOXを捕まえて担持し、核外に排出したことが示された。がん細胞で毒性が現れる一般的なIC50程度のDOX濃度で筋衛生細胞を培養すると、ナノゲルが存在する条件では細胞死が誘導されなかった。つまりこれは、ナノゲルが細胞をレスキューし、副作用の発現が回避されたことを意味している。核外移行性ナノゲルを用いて、正常細胞の核内に蓄積したドキソルビシンを核外に排出できることを世界で初めて示した。この新規概念は、副作用ゼロの実現に大きく貢献するものと期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度では、ナノゲルの核内外輸送特性を利用して、細胞機能を人為的に制御することを目標に設定し、研究を遂行してきた。申請時とは異なるドキソルビシンをモデル薬物として用いているものの、今年度の成果として、ナノゲルを用いて細胞を薬物による細胞死誘導から守ることに成功した。また、DDSのみならず、副作用軽減につながる新しい概念も提唱できた。一方、2019年度では、核酸医薬やタンパク質医薬などをモデル薬物として用いて、ナノゲルによる核内外輸送特性を活用した細胞機能制御を調べる計画であったが、ドキソルビシンの実験に時間がかかり、これらを遂行できなかった。以上より、本研究課題は、計画の通りおおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度(2020年度)では、細胞核ドラッグデリバリーシステムを開発するため、基礎的実験を行う。具体的には、ナノゲルの体内動態を制御する手法を見出す。蛍光ラベル化ナノゲルをマウスに尾静脈投与、皮下投与、腹腔内投与した際の体内動態および各組織・臓器の細胞内動態を解析する。血中滞留性が低く、肝臓や腎臓などへの集積が見られる場合、ナノゲルに組織・細胞選択的なリガンドを導入する。特に、葉酸や環状RGDペプチドなど、がん細胞やがん幹細胞を標的とするリガンドを中心に検討する。また、ナノゲルの生体適合性を解明する。 さらに、これまでに得られた成果を統合して、薬物担持NUC-Porter(抗がん剤、がん遺伝子を標的とする核酸医薬、p53)を担がんマウスに投与し、がん組織における標的遺伝子の発現、細胞機能、抗がん活性を解析する。以上より、抗がん剤およびバイオ医薬(核酸医薬・タンパク質医薬)に対する細胞核DDSの基盤を確立する。
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